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第二章 モモとダンジョン
第50話 モモ(9)
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今年の年明けは、バッバおじさんや近所の人たちが、私の家に集まると大いに盛りあがった。
何かあれば亜人の部隊が最初に行かされるのというのは、よく知られた話だ。私が生きて帰って来れないかもしれないと思い、みんなが来てくれたのだろう。
そんな新年会を終え、十日ほどたった。
「モモ元気でね」
お母さんがそう言って、私を抱きしめてくれる。
「うん」
私は入隊のために首都へと行くことになった。
軍隊は差別が酷いと聞く。おそらくバギーのいじめよりもひどい扱いが待っているだろう。でも、私たちにはその選択肢しかないのだ。
お母さんと兄、神父さんが私を見送りにきてくれる。
「何か困ったことがあったら、シスターを頼るのですよ」
これで何度目かわからない、その言葉を神父さんは私に言うとそっと抱きしめてくれた。
「はい」
あの本は自分からシスターに返すように言われ、鞄の中にしまってある。
乗合馬車は昨日降った大雪で遅れているようだった。
「モモ!」
その時、大きな声で私を呼ぶ声が聞こえる。そこには茶色いコートを着た、体格のいい背の高い男性、そうマッシュが立っていた。
「行くのか」
「うん」
マッシュは私にそう言って駆け寄ってくる。そして自分の赤いマフラーを外し、私の茶色いマフラーの上に巻いてくれた。
「寒いだろ、持っていけ」
「二重だと少し苦しいよ……でも、ありがとう」
そう言うとマッシュは笑ってくれる。その時、私たちの向こうから大きな馬車がやってきた。乗合馬車……あれに乗ったら、もう戻って来れないかもしれない。
そう思い、私は振り返ると言った。
「お母さん、兄さん、神父さん。今までありがとうございました」
「必ず、帰ってくるのよ」
お母さんの言葉に、私は少し間を空けてから答えた。
「うん……いってきます」
「必ず、必ず帰って来い」
マッシュの言葉に、少し泣きそうになるも、私は人差し指を下唇にあてた。
「ええと」
その仕草に笑う神父さん。そして続けて言った。
「マッシュ、またね」
「うん、またな」
こうして私は乗合馬車に乗り、首都へと向かって行ったのだった。
☆
軍に入隊して魔法が少し使えることを伝えると、すぐに第7特殊魔法部隊に配属された。
そこは女性のエルフのみで編成された部隊である。
私はエルフだけの女性部隊ということに少し安心した。
「貴方がモモね」
私が所属した部隊のエリーさんはとても優秀で優しい先輩であり、金髪の長い髪とそのプロポーションの良さは、女の私でも見とれてしまう。
私が元気よく返事をして挨拶をしたところ、横から短い青髪女性がエリーさんに声をかけた。確か、隊長のバルダさん。
私とエリーさんがその姿を見て敬礼すると、バルダ隊長はエリーさんに向かって話しかけた。
「エリー、明日からお前が隊長だ」
その言葉にエリーさんが戸惑ったように、眼鏡を直すと少し緊張した面持ちで答える。
「えっ……私、まだ2年目ですよ」
「みんなが隊長はエリーが良いって言ってるんだからしょうがないだろ」
「でも……」
今度、バルダさんが百人隊副隊長になるので、誰か繰り上がりで隊員の中から隊長を決めることになっていた。
当然、エリーさんが全員一致で選ばれる。彼女は判断力や魔法の実力も軍の中で飛びぬけていた。
私も配属されたばかりだが、エリーさんの噂は聞いていたので、当然彼女を選んだ。
「私が副隊長になることはできませんか? そして、アレーさんを隊長に推薦します」
「アレーか。うーん、確かにやつは優秀だ、しかし……」
バルダさんはそこで考え込む。アレーさんはエリーさんの一つ年上で、かなり優秀な人らしいことは聞いていた。
しかし、私は数回しか会ったことがない。アレーさんは私が配属になってすぐに体調を崩して入院してしまったからだった。
「戻ってくるまでは私が代わりをしますんで」
「そうか……わかった。じゃ、アレーが隊長、貴様が副隊長だ」
バルダ隊長が少し悩んだ末に、そう返事をするとエリーさんは満面の笑みで応える。
笑顔からアレーさんの事をかなり信頼しているのが分かる。
「はい。アレーさんがいつ戻ってきてもいいように頑張ります」
こうして、アレー隊……実質、エリー隊に私は配属になった。
何かあれば亜人の部隊が最初に行かされるのというのは、よく知られた話だ。私が生きて帰って来れないかもしれないと思い、みんなが来てくれたのだろう。
そんな新年会を終え、十日ほどたった。
「モモ元気でね」
お母さんがそう言って、私を抱きしめてくれる。
「うん」
私は入隊のために首都へと行くことになった。
軍隊は差別が酷いと聞く。おそらくバギーのいじめよりもひどい扱いが待っているだろう。でも、私たちにはその選択肢しかないのだ。
お母さんと兄、神父さんが私を見送りにきてくれる。
「何か困ったことがあったら、シスターを頼るのですよ」
これで何度目かわからない、その言葉を神父さんは私に言うとそっと抱きしめてくれた。
「はい」
あの本は自分からシスターに返すように言われ、鞄の中にしまってある。
乗合馬車は昨日降った大雪で遅れているようだった。
「モモ!」
その時、大きな声で私を呼ぶ声が聞こえる。そこには茶色いコートを着た、体格のいい背の高い男性、そうマッシュが立っていた。
「行くのか」
「うん」
マッシュは私にそう言って駆け寄ってくる。そして自分の赤いマフラーを外し、私の茶色いマフラーの上に巻いてくれた。
「寒いだろ、持っていけ」
「二重だと少し苦しいよ……でも、ありがとう」
そう言うとマッシュは笑ってくれる。その時、私たちの向こうから大きな馬車がやってきた。乗合馬車……あれに乗ったら、もう戻って来れないかもしれない。
そう思い、私は振り返ると言った。
「お母さん、兄さん、神父さん。今までありがとうございました」
「必ず、帰ってくるのよ」
お母さんの言葉に、私は少し間を空けてから答えた。
「うん……いってきます」
「必ず、必ず帰って来い」
マッシュの言葉に、少し泣きそうになるも、私は人差し指を下唇にあてた。
「ええと」
その仕草に笑う神父さん。そして続けて言った。
「マッシュ、またね」
「うん、またな」
こうして私は乗合馬車に乗り、首都へと向かって行ったのだった。
☆
軍に入隊して魔法が少し使えることを伝えると、すぐに第7特殊魔法部隊に配属された。
そこは女性のエルフのみで編成された部隊である。
私はエルフだけの女性部隊ということに少し安心した。
「貴方がモモね」
私が所属した部隊のエリーさんはとても優秀で優しい先輩であり、金髪の長い髪とそのプロポーションの良さは、女の私でも見とれてしまう。
私が元気よく返事をして挨拶をしたところ、横から短い青髪女性がエリーさんに声をかけた。確か、隊長のバルダさん。
私とエリーさんがその姿を見て敬礼すると、バルダ隊長はエリーさんに向かって話しかけた。
「エリー、明日からお前が隊長だ」
その言葉にエリーさんが戸惑ったように、眼鏡を直すと少し緊張した面持ちで答える。
「えっ……私、まだ2年目ですよ」
「みんなが隊長はエリーが良いって言ってるんだからしょうがないだろ」
「でも……」
今度、バルダさんが百人隊副隊長になるので、誰か繰り上がりで隊員の中から隊長を決めることになっていた。
当然、エリーさんが全員一致で選ばれる。彼女は判断力や魔法の実力も軍の中で飛びぬけていた。
私も配属されたばかりだが、エリーさんの噂は聞いていたので、当然彼女を選んだ。
「私が副隊長になることはできませんか? そして、アレーさんを隊長に推薦します」
「アレーか。うーん、確かにやつは優秀だ、しかし……」
バルダさんはそこで考え込む。アレーさんはエリーさんの一つ年上で、かなり優秀な人らしいことは聞いていた。
しかし、私は数回しか会ったことがない。アレーさんは私が配属になってすぐに体調を崩して入院してしまったからだった。
「戻ってくるまでは私が代わりをしますんで」
「そうか……わかった。じゃ、アレーが隊長、貴様が副隊長だ」
バルダ隊長が少し悩んだ末に、そう返事をするとエリーさんは満面の笑みで応える。
笑顔からアレーさんの事をかなり信頼しているのが分かる。
「はい。アレーさんがいつ戻ってきてもいいように頑張ります」
こうして、アレー隊……実質、エリー隊に私は配属になった。
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