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第一章 逃走と合流
第29話 ラフランとアレー(4)
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「あの小屋の裏側、森の奥にさらに大きな建物が建っています」
「なるほど」
ラフランによれば、裏に回った森の奥により大きな建物があって、そこに10人ほど確認したそうだ。
多く見積もって20人くらいいるかもって……。かなり大所帯の山賊である。
「すぐに突入しなくてよかったな」
「そうですね」
せいぜい5、6人だろうと思って突入して、仲間を呼ばれたらやっかいな事態になるところだった。
俺たちは再び小屋のほうを見つめる。
「あの小屋、天窓がついてるな」
「ああ、そうですね。いってみますか」
「いけそうか?」
「ええ、あの木から飛び移ればいけそうですよ」
そう、めっちゃ楽勝そうに言ったラフラン。彼女の指差した先には大きなカシの木があり、その枝から小屋の屋根に飛び移れそうだった。
「あいつら見張りとかつけてないですし」
「そうだな。たまに窓から外をのぞいてるくらいか」
「ええ」
俺たちはお互いに顔を見合わせる。
「行くか」
「了解です」
ラフランのその返事とともに、俺たちは見つからないように身を潜めながら、そのカシの木のほうへと向かったのだった。
☆
敵に見つかることなく、木に登ると屋根に飛び移った。
すると、トン! と小さな音がなる。
し、しまった……。
「おっ、何の音だ」
中で男の太くて低い声が、天窓の向こうから聞こえてきた。
やばい、見つかる。
そう思い俺たちは少し身を屈める。そんなときラフランは、俺のほうを見ると自分の唇に人差し指を当てて、静かにするようにと可愛らしく笑顔で合図をしてみせた。
お前、こんな時に緊張感がないな、俺はそう思う。
「猿じゃないですか?」
別の男が言った言葉にラフランは、こっちを見てにやりと笑う。そして突然屋根の上をその三つ編みを揺らしながら、子猫のように小股で走り出しだ。
「もう、うるせえな! 追い払って来い!」
「へい」
部下と思われる男の返事が聞こえると同時に、屋根の端まで行くとポンと小さく飛び跳ねた。そして音を立てないようにそっと戻ってくるラフラン。
自慢げに、してやったりという顔をしていた。
「ほら、どっかいきましたぜ」
「ああ、そうだな」
そう言ったのを、俺たちはお互い顔を見合わせて確認する。そして二人で顔を寄せ合うように天窓から中をのぞいた。
「うっ」
薄暗い部屋には、倒れた椅子や食器が散乱し、荒れ果てた様子が伺える。壁際に横たわる三人の女性は、明らかに暴行を受けた形跡があった。
一人はエルフ、後の二人は人間である。
その横には男が三人おり、後から来た三人の男たちだけが服を着ていた。
「おらっ、まだこれからなんだよ!」
一人の男がエルフの女、その緑の長い髪をつかむと怒鳴りちらす。ラフランがその様子をみてくっと苦虫を噛みつぶしたような顔をする。
俺と同じ髪の色、それはかなり珍しい。同じ隊にも、合流した別の隊にもいなかった。
「やっぱり、副隊長たちじゃなかったですね……でも、酷いですね」
「ああ」
ラフランの少し怒りがまじった言葉に俺がそう返事をすると、中からさらに山賊たちの声が聞こえた。
「ボスが激しくするから、何も言わなくなっちまったじゃないすっか」
「ああ、すまんな」
男が引っ張っていた、エルフの綺麗な緑色の長い髪から手を放す。がくん、と力なくうなだれたエルフは、そのまま再び倒れ込んだ。
ボスと言われた男は、2メートルほどの巨体で、下半身は緑色の鱗に覆われたリザードマンそのものであった。恐らく、人間とリザードマンのハーフか、それにしても大きい。
そのボスは椅子に座ったまま、爬虫類そのものの目で男たちを見渡し威圧した。
「お前たち、飯はどうした?」
「へい! ここに」
すると、男たちはさっき道で手にしていた食料を机の上に置いていく。それを見ると満足したように、立ち上がるボス。
「助けましょう。僕があのトカゲをやっつけますんで」
「えっ?」
突然のラフランの言葉に振り向くと、手にはいつの間にかメリケンサックを握っていた。
「隊長なら、残りのやつら秒殺だと思うんで」
「えっ、無理……」
そう言うとラフランは俺の返事も聞かずに、天窓から何の躊躇もなく飛び降りた。
俺は彼女のその行動に、慌ててナイフを右手に握る。
そしてラフランは、はめていたメリケンサック、それを装着した右拳でボスの後頭部を落下の勢いのままに振り抜いた。
「痛えな!」
その力いっぱい振り抜いた強烈な打撃音にもかかわらず、ボスはちょっと痛がっただけで、すぐに後ろを振り向む。そして怒りに満ちた爬虫類の目でラフランを睨みつけた。すぐに大きな腕でラフランの右手をつかむと、思い切り床へと叩きつけた。
「ぐっ!」
ラフランは痛みに顔が歪むと同時に、そんなうめき声をあげる。
そして叩きつけられた反動で、浮かび上がったラフランの体。その腹を目がけ、その太い足で思い切り蹴り上げた。
「べっ!」
ラフランはそのままボロ雑巾のように蹴飛ばされ、壁際まで飛ばされるとうめき声と同時に動けなくなった。
「なるほど」
ラフランによれば、裏に回った森の奥により大きな建物があって、そこに10人ほど確認したそうだ。
多く見積もって20人くらいいるかもって……。かなり大所帯の山賊である。
「すぐに突入しなくてよかったな」
「そうですね」
せいぜい5、6人だろうと思って突入して、仲間を呼ばれたらやっかいな事態になるところだった。
俺たちは再び小屋のほうを見つめる。
「あの小屋、天窓がついてるな」
「ああ、そうですね。いってみますか」
「いけそうか?」
「ええ、あの木から飛び移ればいけそうですよ」
そう、めっちゃ楽勝そうに言ったラフラン。彼女の指差した先には大きなカシの木があり、その枝から小屋の屋根に飛び移れそうだった。
「あいつら見張りとかつけてないですし」
「そうだな。たまに窓から外をのぞいてるくらいか」
「ええ」
俺たちはお互いに顔を見合わせる。
「行くか」
「了解です」
ラフランのその返事とともに、俺たちは見つからないように身を潜めながら、そのカシの木のほうへと向かったのだった。
☆
敵に見つかることなく、木に登ると屋根に飛び移った。
すると、トン! と小さな音がなる。
し、しまった……。
「おっ、何の音だ」
中で男の太くて低い声が、天窓の向こうから聞こえてきた。
やばい、見つかる。
そう思い俺たちは少し身を屈める。そんなときラフランは、俺のほうを見ると自分の唇に人差し指を当てて、静かにするようにと可愛らしく笑顔で合図をしてみせた。
お前、こんな時に緊張感がないな、俺はそう思う。
「猿じゃないですか?」
別の男が言った言葉にラフランは、こっちを見てにやりと笑う。そして突然屋根の上をその三つ編みを揺らしながら、子猫のように小股で走り出しだ。
「もう、うるせえな! 追い払って来い!」
「へい」
部下と思われる男の返事が聞こえると同時に、屋根の端まで行くとポンと小さく飛び跳ねた。そして音を立てないようにそっと戻ってくるラフラン。
自慢げに、してやったりという顔をしていた。
「ほら、どっかいきましたぜ」
「ああ、そうだな」
そう言ったのを、俺たちはお互い顔を見合わせて確認する。そして二人で顔を寄せ合うように天窓から中をのぞいた。
「うっ」
薄暗い部屋には、倒れた椅子や食器が散乱し、荒れ果てた様子が伺える。壁際に横たわる三人の女性は、明らかに暴行を受けた形跡があった。
一人はエルフ、後の二人は人間である。
その横には男が三人おり、後から来た三人の男たちだけが服を着ていた。
「おらっ、まだこれからなんだよ!」
一人の男がエルフの女、その緑の長い髪をつかむと怒鳴りちらす。ラフランがその様子をみてくっと苦虫を噛みつぶしたような顔をする。
俺と同じ髪の色、それはかなり珍しい。同じ隊にも、合流した別の隊にもいなかった。
「やっぱり、副隊長たちじゃなかったですね……でも、酷いですね」
「ああ」
ラフランの少し怒りがまじった言葉に俺がそう返事をすると、中からさらに山賊たちの声が聞こえた。
「ボスが激しくするから、何も言わなくなっちまったじゃないすっか」
「ああ、すまんな」
男が引っ張っていた、エルフの綺麗な緑色の長い髪から手を放す。がくん、と力なくうなだれたエルフは、そのまま再び倒れ込んだ。
ボスと言われた男は、2メートルほどの巨体で、下半身は緑色の鱗に覆われたリザードマンそのものであった。恐らく、人間とリザードマンのハーフか、それにしても大きい。
そのボスは椅子に座ったまま、爬虫類そのものの目で男たちを見渡し威圧した。
「お前たち、飯はどうした?」
「へい! ここに」
すると、男たちはさっき道で手にしていた食料を机の上に置いていく。それを見ると満足したように、立ち上がるボス。
「助けましょう。僕があのトカゲをやっつけますんで」
「えっ?」
突然のラフランの言葉に振り向くと、手にはいつの間にかメリケンサックを握っていた。
「隊長なら、残りのやつら秒殺だと思うんで」
「えっ、無理……」
そう言うとラフランは俺の返事も聞かずに、天窓から何の躊躇もなく飛び降りた。
俺は彼女のその行動に、慌ててナイフを右手に握る。
そしてラフランは、はめていたメリケンサック、それを装着した右拳でボスの後頭部を落下の勢いのままに振り抜いた。
「痛えな!」
その力いっぱい振り抜いた強烈な打撃音にもかかわらず、ボスはちょっと痛がっただけで、すぐに後ろを振り向む。そして怒りに満ちた爬虫類の目でラフランを睨みつけた。すぐに大きな腕でラフランの右手をつかむと、思い切り床へと叩きつけた。
「ぐっ!」
ラフランは痛みに顔が歪むと同時に、そんなうめき声をあげる。
そして叩きつけられた反動で、浮かび上がったラフランの体。その腹を目がけ、その太い足で思い切り蹴り上げた。
「べっ!」
ラフランはそのままボロ雑巾のように蹴飛ばされ、壁際まで飛ばされるとうめき声と同時に動けなくなった。
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