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慰弦

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- 28章 -

-とある休日2-

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もちろん、本当にデートをしているわけではないのだけれど、始めて感じたデート感がこんな女装男なんて、という罪悪感で、安積は座ったまま深く頭を下げた。

しかし、鈴橋にとって、そんな安積の謝罪は予想外であり、暫し目を丸くして見詰めたかと思うと、微かに難しい表情を浮かべ、首を傾げた。


「…別にお前が気にする事じゃない。それに多分ー」

「お待たせ2人ともっ!」


なにかを言いかけた鈴橋の言葉は、タイミング良く御手洗いから戻ってきた植野の声で書き消される。言葉の続きを視線で問うてみる安積だったが、1度伏せられた鈴橋の目は、上げると共に綺麗に反らされ、続きを聞くことは叶わなかった。


「じゃぁ、出るか」

「むっちゃん達はこの後どうす」

「帰るっ!!」

「「??」」


会計を済ませカフェを出たものの、時刻は15時半を回ったばかりで、帰路につくにはまだ少し早い。偶然とは言え折角集まったのだ。どうせなら皆でもう少し、と思った植野だったが、誰よりも早く拒絶をしたのは、潜めてたのも忘れたかの様に声を張り上げた安積だった。


「そっ、そっか。じゃぁ、残念だけど解散にしよ」

「まぁ、その格好であまり出歩きたくないだろうしな」


安積の勢いに驚きながらも了承した植野と鈴橋に、素早く手を上げサッと背を向けた安積は、颯爽と自身の帰路へと帰っていく。


「…えっと、どうしたんだろうね、せーちゃん」

「さぁ? じゃ、お前らも気をつけて帰れよ」

「あぁ」


脱兎の勢いで去っていく安積を、呆気にとられつつ見送る3人だったが、いち早く我を取り戻した市ノ瀬は、手早く別れの挨拶を口にすると、小走りで安積を追いかけ始めた。


「………あっ!」

「Σ びっ、くりしたっ!どしたの、がっくん?」

「市ノ瀬っ!! ちょっと待て市ノ瀬っ!!」


走り去っていく市ノ瀬の背中を無言で見送っていた植野等だったが、突如なにかを思い出したかのように声を上げた鈴橋は、市ノ瀬を追いかけ走り出す。

そして、聞き覚えのある声の、あまり聞く事のない張り上げた声と、近付いてくる足音に気がついた市ノ瀬は、足を止め振り向くと、珍しく焦ったような表情をした鈴橋が、懸命に追いかけて来ているところだった。


「なに?どうした?」

「ぃや、あの…もしかしたら、俺の勘違いかもしれないんだがー」


市ノ瀬を追いかけ走り去った鈴橋に、植野が追い付く頃には、随分と短い用件だったようで、片手を上げた市ノ瀬の背中が、再び安積を追い消えていく所だった。
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