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- 28章 -
-とある休日2-
しおりを挟む気にはなるけれど、なんだか安易に聞いてはいけない気がして、安易に首を突っ込もうとした植野にストップをかけると、丁度追加注文していたケーキが届き、鈴橋は手をつけるでもなく、安積へと差し出した。
「…え?」
「食べろ」
「でも…」
「噛め」
「えと…?」
「満腹か?」
「や、全然…」
突如もののけの姫が言っていたようなセリフを吐き捨てた鈴橋を、安積は戸惑いながら見上げる。なにを突然と思ったけれど、遅れて落ち込む自分への気づかいだと気がつき、その優しさに涙腺がいっきに緩む。
「あっ、ぁりがとぉぅ、がっくん~っ」
「…別に、礼なんて」
目を潤ませ、満面の笑みでへにゃりと笑いお礼を口にした安積は、嬉しそうに1口ケーキを含むと再び鈴橋へと笑顔を向けた。
「…自慢、したくなる気持ちは
……分からんでもないけど」
「だろっ?ww」
唐突に向けられた安積の笑顔を目の当たりにした鈴橋は、思わず先程よりも実感の籠った、2度目となる肯定を示してしまう。何故だか自分の事のように嬉しそうに笑う市ノ瀬に、なんだか負けたような気分だ。
そんなことはさておき、ずっとテンション低くケーキをつついて居た安積が、今は嬉しそうにケーキに舌鼓している。その様子を見ると、なんだか結果良しな気もしてきてしまうが…
やはり先程自身で言った、安積の気持ちも考えないとと言うのも嘘ではない。
「女装して外出歩く方がましだって思うほど、失う大事な何かがなんなのかは分からんが、あまり無理するなよ」
「ぁっ……う、うん」
少しばかり狼狽しつつ返事をする安積に、女装して出歩くというこの状況を、甘んじて受け入れなければならない程の提案が市ノ瀬から示されたのだと思うと、安積への憐れみや、市ノ瀬への非難が浮かぶ。
もしかしたら、仲が良い故に断り辛いのかもしれないし、優しい性格故に、市ノ瀬の押しの強さに負けてしまうのかもしれない。もしそれで困っているなら、自分でも少し手助けするくらいは出来ー
「でもさ…」
「ん?」
「なんだかんださ、睦月が楽しそうにしてるの見るとさ…まぁいっかって思っちゃうんだよなぁ」
「「「………………」」」
鈴橋からのケーキで持ち直したのか、少し上機嫌で呟いた安積の言葉に、この状況を楽しんでいた植野等も、安積を心配していた鈴橋も、一様に言葉をなくした。
思うことは様々だが、とりあえずはー
「愛されてんね、むっちゃん…」
「えっ? ちっ、違っ!そんなんじゃないからっ!!」
「そうだなっww」
「違うからねっ!?」
「違うの?」
「うっ……」
「…まぁ、お前がそれで良いなら良いけど…でももう少し自分大切にしろよ…?」
「ぅっ、うん…ありがと」
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