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- 28章 -
-とある休日-
しおりを挟むコントの様な会話を繰り広げる市ノ瀬兄妹を、微笑ましく眺めていた月影だったが、そんな市ノ瀬兄妹の後ろから、哀愁を感じさせる感情がふんわりと漂い、ハッとする。
『そうだった…この子はー』
弟を好きだったのだ。
市ノ瀬兄妹の後ろでは、班乃兄妹が室内動物園を観ながらのんびりと会話を交わしていた。その横顔は至って普通に見えるけれど…
目の前でこんな会話をするのは、配慮に欠けていたかもしれない。
けれど、班乃は月影が心を読めることを知らない。故に安積を好きだったという事実を、月影が知っている事も知らない。
それに、その感情の結果がこの悲しい現状となれば、本人も知られたくはないだろう。
『でも、流石だなぁ、班乃くん。それでも変わらず仲良くしてくれてるなん、て…って…あれ?』
感心と、感謝と、安堵を同時に感じつつ、それとなく班乃へと視線を投げると、今更ながらにある異変に気がついた。
「…………」
「なんです急に気持ち悪い」
当たり前に側にあったものがなくなっている。無意識に近づき、班乃の肩に手を乗せ、もっと良く感じようと顔をのぞき込んだ所で、息継ぎすらないド直球な班乃の言葉と、全力でドン引きしている表情を一身に受ける。
が、今はそんなことなど気にする隙間はなかった。
「……そっかそっか。ふーん…」
「なんなんです?1人で勝手に納得してないで下さいよ」
「あぁ、ごめんごめん」
ある程度の事情を読み取れた所で体を離し、口に手を当て、暫し考える素振りを見せた月影は、顔の横で人差し指を立て左右に振った。
「実はね、とある人から君宛の伝言を預かってるの」
「……伝言、ですか?」
「そうっ!」
人目もあるし、班乃の姉も居るので差出人の名前は言えないけれど、きっと本人には伝わるはずだ。
伝えたい思いがたくさんあっただろう事は感じとれるけれど、どうやらその余力はなかったようで、短いメッセージしか残ってなかった。
それでも、それが全てな気がした。
訝しげに見上げてくる班乃の目を、伝言を受け取った者の責任として、ちゃんと伝わるようにとしっかりと見返した。
「雪だるま、頑張って作ったの。見てくれた?」
「雪だるま?」
「そう。1体、多かったでしょ?って」
「………そう、ですね」
「きっと、一緒に遊びたかったんだろうね。君達のと並べて置けたのが、凄く嬉しかったみたい」
月影の言葉の意味と、それが一体誰からの伝言なのか。直ぐに理解した班乃は、少し泣きそうな表情を浮かべた。誰にも聞こえないようにと身を屈め、その耳元に口を寄せると、声のトーンを落とす。
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