1,092 / 1,142
- 28章 -
-とある休日-
しおりを挟むずっと口をつぐんでいたかと思えば、こんな話題に反応するなんて。月影と言えば月影らしいとも言えるが、やはり月影の行動は予測できず面白いと、秋山の顔に笑顔が浮かんだ。
やいのやいのと言葉を交わしながらも、いつも通りの元気が少しずつ戻ってきたような月影に、秋山は密かに胸を撫で下ろす。
そんな2人を静かに見つめ、首を傾げていた班乃の姉は、突然なにかを思い出したようで、興奮したように弟の腕をバシバシと叩いた。
「ねぇ!明っ!!」
「ちょっと、地味に痛いんですけど」
「思い出したのっ! あの黒髪の人、見たことある!」
「へぇ。偶然ですね」
「スーパーでね、金髪の小さい子と、トマトは駄目だけどイクラは平気とか、苦いの苦手なのに大葉は平気なのなんでとか、そんな話してたっ!」
「……多分その子は弟ですね。くっだらない話にものすっごく意気揚々としてる情景が容易く目に浮かんで笑えてきますよ」
「私もその時イケメンなのに会話が残念だっ!って思ったのっ! 思うことは一緒ねっw」
「まぁ、兄妹ですしね」
『安積は可愛いですけど』
親友同士が、班乃兄妹が各々会話を楽しんでいる中、班乃姉と共に居た女性が音もなくスッと近づき、市ノ瀬の側を通りすぎる。そのまま班乃兄妹をも通りすぎ、秋山と月影の前でピタリと足を止めると徐に2人を見上げた。
唐突に現れた女性に気づいた一同が一瞬にして口をつぐみ、その初対面ではあり得ない距離感に、戸惑い固唾を飲むその横で、市ノ瀬だけが微かに焦りの色を浮かべている。
月影と秋山を交互に見た後、狙いを定めたように、無感情ともとれる視線を秋山へと縫い止めた。そのまま暫し見つめあうだけの異様な時間が過ぎていく。
「あ、あの…なにか?」
「のんちゃんのお知り合い?」
「ううん、初対面…のはず。ですよね?」
流石に耐えきれなくなり問いかけてみるが、その女性は相変わらず答える事なく、首をかしげるだけだった。
『もしかしたらお店に来てくれた事があった、とか?』
人の顔を覚えるのは苦手ではない筈なのだけれど、どれだけ記憶を辿っても、目の前に居る彼女の顔は浮かんでこない。もし店に来てくれていたとしたならば、ここまで覚えていないなんてそんな失礼な事があるだろうか?
真剣に見つめ合う2人に、なんとなく声をかけづらい空気が漂い、誰もが声をあげるタイミングを読みあっている。そんな空気を破ったのは、当事者であるその女性だった。
「アスパラ」
「……えっ? アス…パ」
「おいっ!!」
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。


塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

私の事を調べないで!
さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と
桜華の白龍としての姿をもつ
咲夜 バレないように過ごすが
転校生が来てから騒がしくなり
みんなが私の事を調べだして…
表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓
https://picrew.me/image_maker/625951

初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

チャラ男会計目指しました
岬ゆづ
BL
編入試験の時に出会った、あの人のタイプの人になれるように…………
――――――それを目指して1年3ヶ月
英華学園に高等部から編入した齋木 葵《サイキ アオイ 》は念願のチャラ男会計になれた
意中の相手に好きになってもらうためにチャラ男会計を目指した素は真面目で素直な主人公が王道学園でがんばる話です。
※この小説はBL小説です。
苦手な方は見ないようにお願いします。
※コメントでの誹謗中傷はお控えください。
初執筆初投稿のため、至らない点が多いと思いますが、よろしくお願いします。
他サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる