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慰弦

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- 28章 -

-憎悪と情愛-

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好きな人から裏切られ続けたとなれば、憎しみも人一倍だろう。可愛さ余ってというやつだ。更には、そのせいで大好きな人達と離れなくてはならなくなったのなら、尚更。

月影が見せる、暗く沈む表情は、長谷川も今までに何度も見た事があるものだったが、何度見て嫌なものだ。

親友には、いつもみたいに馬鹿みたく笑っていて欲しい。その為に、自分が出来る事があるならなにも惜しむことはない。

彼が、彼等が自分を満たしてくれたように、自分も満たして上げたい。それが長谷川の願いだった。

最初こそ、恩返しのような気持ちもあったが、今となっては、ただただ大事な親友だからと言う気持ちが強い。

閉じ込めた感情を吐き出す事で、少しは発散出来ただう。 少しは楽になっただろう。自分とはまったくタイプの違う親友だから、人を悪く言った事に落ち込むだろうが、“ 落ち込む” 以上の“ 楽 ” を感じてくれている筈だ。

暗いながらも、毒気が抜けたような力ない月影の目が、ゆっくりと瞬きをし、今度はどこか、泣きそうな表情を浮かべた。

『ほんと、喜、哀楽の感情が豊かな奴だな…』 


「……でもね、今はそんな事より、当時の事を思い出して、いまだに落ち込む事とか、うまく感情コントロール出来なかったのが、情けなくて辛い。そのせいでせいに怖い思いさせちゃったのが申し訳なくて、不甲斐なくて嫌」

「あー…」

「鉄司の二の舞にさせたくないのに」

「あれはマジて死ぬかと思ったしなぁw」


当時を思い出し苦笑いを浮かべる長谷川に、月影も同じく笑い返した。何年も謝り倒した結果、今はもう、若干ネタ扱いになっている節はある。


せいの前では、冷静で頼りがいがあって、尊敬出来る、そんなちゃんとしたお兄ちゃんで居たかったのにってのが、1番しんどい」

「まぁ、あるよな、そういうの」


再び机の上に組んだ両腕に顔を埋める月影を、長谷川は頬杖をつき眺めた。月影の感じている思いは、けして弟を見下している訳でも、優位に立ちたいわけでもない。

兄としてのプライドと言うには大仰しいかもしれないが、やはり見本になる背中でいたいと言う気持ちがあるのだろう。

『弟、ねぇ…』

長谷川にも、弟は、居た。

けれど、兄として接する事はなかった。

しかし、弟のような存在は居る。

彼を思い浮かべれば、完璧ではないにしても、月影の気持ちも分かる気がした。少し無理をしてでも、背伸びしてでも、頼られる存在で居たい。

そう感じた時が、自分にも確かにあった。

とは言え、兄だろうがなんだろうが、1人の人間だ。なんでも出来るわけじゃないし、出来ない事だって勿論ある。
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