Pop Step

慰弦

文字の大きさ
上 下
1,082 / 1,151
- 28章 -

-憎悪と情愛-

しおりを挟む


突っ伏したまま長谷川を見ると、かなり呆れたような目が月影を見ていた。無理もない。これはずっと言われ続けてた事だ。

許せない事に疲れた。
憎む事に疲れた。
なら、許す為に疲れる方が良い。

嫌いより、好きに目を向けられる人間になりたい。


「…だってそーでもしないとずっとしんどいんだもん。良い子になるのも悪い子になるのも、どっちもしんどいなら、良い子になりたいじゃない」

「それで突撃してくるくらい落ち込んでたら世話ねぇよなぁ」

「…それは、ごめん」


無理矢理にでも、彼女にとっては悪者でも、自分にとっては良い人でありたい。そう決めたのだとしても、辛い事に変わりはなく、その結果、長谷川に迷惑をかけ、更には…


「あのなぁ、只でさえお前の場合爆発したらやべぇんだからマジで。溜めて溜めて爆発させるのだけは勘弁しろよな。不満があるなら小出しにして、発散…させ、て……」

「……………」

「……え? なに? なん、だよ?」


サッと目を反らした月影の態度に、なにかを察した長谷川は、顔をひきつらせた。流れていない汗が、鮮明に見えそうな程に。


「おま…えっ?  なん…えっ?? まさか…」

「……だからお子様だって言ったじゃん」

「だからって……はぁ!? 今度はなにっ!?ガラス割ったっ!?変なのと追い駆けっこかっ!?もしかしてどっかに閉じ込められたっ!?それともー」


顔面蒼白で身を乗り出した長谷川に、月影は慌てて両手を差し出した。学生時代、長谷川のあまりの鬱陶しさに耐えきれず、うっかり与えてしまったファーストインパクトが強烈だったせいだろう。身を案じてくれただろう事はありがたいのだけど…

どの口が言っているのかと思われるかもしれないが、流石に、当時と同じ事を起こす程子供じゃない。

オーバーリアクションともとれる長谷川の反応に少しムッとするが、つい先程起こしてしまったばかりの事態が頭に浮かべば、瞬時にしてそれもすぐさま引っ込んだ。同じくらいじゃないとは言え、だ。


「お前1人か?それとも誰か被害者が…?」

「……せい

「うわぁー…気の毒すぎる。大丈夫だったのか?せい君は」

「大丈夫だよ。大爆発したってわけじゃないし。もっと…ちっちゃい爆発。水面がちょっとブクブクーってして、ザザーっとして、木がざわざわーってしたくらい」

「小さいから良いって訳じゃねぇし、可愛く言ったって普通に怖いからなっ?お前基準で考えんなっ!」

「ですよねぇー…でもほら、今日はたまたまというか、油断してたというか、その、色々重なっちゃっただけで…仕事修羅場明けで色々限界だったのもあったし、それで寝湯で寝ちゃって」

「ほらって…修羅場明け眠くなるのは分からなくもねぇけど…ってかそんな所で話してたのかよお前ら」

「ちょっと癒されようと思って。寝るつもりはなかったんだけど、思ったより限界だったみたいでさぁ。それでちょっと…夢見が悪くて…」

「夢見? なんの夢見たんだよ?」

「……おじいさんの夢。と、ちょっと事故った時の祐子さんの夢。やけにリアルで、感覚まであって、本当最悪だったの。だからホント、タイミング悪くて」

「ちょっとの事故じゃねぇだろ、あれは」

「良いの、ちょっとで」

「そ。お前が良いなら、良いけど…」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

ヤンデレでも好きだよ!

はな
BL
春山玲にはヤンデレの恋人がいる。だが、その恋人のヤンデレは自分には発動しないようで…? 他の女の子にヤンデレを発揮する恋人に玲は限界を感じていた。

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

男子寮のベットの軋む音

なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。 そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。 ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。 女子禁制の禁断の場所。

笑わない風紀委員長

馬酔木ビシア
BL
風紀委員長の龍神は、容姿端麗で才色兼備だが周囲からは『笑わない風紀委員長』と呼ばれているほど表情の変化が少ない。 が、それは風紀委員として真面目に職務に当たらねばという強い使命感のもと表情含め笑うことが少ないだけであった。 そんなある日、時期外れの転校生がやってきて次々に人気者を手玉に取った事で学園内を混乱に陥れる。 仕事が多くなった龍神が学園内を奔走する内に 彼の表情に接する者が増え始め── ※作者は知識なし・文才なしの一般人ですのでご了承ください。何言っちゃってんのこいつ状態になる可能性大。 ※この作品は私が単純にクールでちょっと可愛い男子が書きたかっただけの自己満作品ですので読む際はその点をご了承ください。 ※文や誤字脱字へのご指摘はウエルカムです!アンチコメントと荒らしだけはやめて頂きたく……。 ※オチ未定。いつかアンケートで決めようかな、なんて思っております。見切り発車ですすみません……。

どうやら手懐けてしまったようだ...さて、どうしよう。

彩ノ華
BL
ある日BLゲームの中に転生した俺は義弟と主人公(ヒロイン)をくっつけようと決意する。 だが、義弟からも主人公からも…ましてや攻略対象者たちからも気に入れられる始末…。 どうやら手懐けてしまったようだ…さて、どうしよう。

処理中です...