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慰弦

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- 28章 -

-憎悪と情愛-

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『もしかしたらお疲れだったのかな?悪いこ事しちゃったなぁ…』

そんな事を考えながら、珍しくしゅんとした様子で謝罪を口にする月影を、まだ開ききらない目で見上げた長谷川は、のんびりと欠伸を1つこぼすと、緩慢な動きで壁へと寄りかかった。

『……なんか、昔思い出すなぁー』

今でこそ、天真爛漫、自由気まま、全力フリーダムで、他人を振り回すような月影だが、実は、学生時代は、180℃真逆なタイプだった。

静かに笑い、静かに喜び、静かに悲しむ。口数は少なく、表情も乏しかった為、何を考えてるのかも分からず、打ち解ける為に必死になってた時もあった。

打ち解けるとこんな性格になるなんて、想像すらしていなかった。

『ほんと、どこで育て方間違ったのやら…まぁ、どっちも嫌いじゃないけどな….』

しおらしく俯き、申し訳なさそうな表情を浮かべる月影の姿に、鮮明に思い出された当時の記憶を懐かしんでいたい。そんな気持ちもなくはない長谷川だったが、それよりも、何故こんなに落ち込んでいるのかの方が大事だった。

なにか話したい事があって来たのだろう事は想像に容易く、それなら、聞かない選択肢はなかった。


「良いよ別に。謝らんでも。テレビ見ながら寝落ちしてただけだし。で、なにかあったのか?」

「…ぃや、大したことじゃないんだけどね…その、ちょっと、慰めてもらおうかと」

「慰めって、何やらかしたんだよw」

「まぁ…ちょっとね。鉄司、今時間へーき?」

「しょうがねぇな。ちょっとだけだぞ」


なんだかんだ、頼られると弱いのだ。
長谷川にとって、月影や秋山は特に。
これは昔からであり、自覚する所でもあるが、変えようもないし、変える気もなかった。自分が力になれるのなら、多少の無理だっていとわないとー…


「大丈夫、この後蓮といちゃらぶする予定あるから、長くはならない」

「…帰らせるぞ?」

「ごめんって」


一瞬、本気で帰らせようかとも思ったが、その予定があるにも関わらず来たと言うのなら、彼女にも話せない、よっぽどの事があったに違いない。

『やっぱ、聞かない選択肢はねぇよなぁ…』

端に寄り通るスペースを開けた長谷川は、元気なくお礼を口にし、家の中へと入った月影を追いかけるようにリビングへと足を踏み入れた。


「……ぁ、綾鷹だ」

「普通に飲むなら綾鷹って言ってただろ?」


車で来ている上、この後予定もあるようだしと、アルコールではなくお茶を差し出したのだが、1口飲んだとたん、月影はグラスに視線を落とし、抑揚のない声でボソリと呟いた。
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