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- 28章 -
-憎悪と情愛-
しおりを挟むどういう経緯でそうなったのかは、月影の知る所ではないが、頬杖をつき、遠い目をした弟の様子に、少々罪悪感を感じざるおえなかったのは言うまでもない。
とはいえ、市ノ瀬が故意に安積を置いて行ったとは考えづらく、きっと置いていかれたと言うよりも、はぐれたか、意志疎通の不備でもあったのだろう。
…弟を待たせていると分かった上で、嫁とイチャついていた自分と違って。
「ごめんね、待たせちゃって」
「まぁ、良いんだけどさ、そんなん別にっ。あるよね、そういう時も!とにかく、今日は連れてきてくれてありがとっ! 色々話してくれたのも、思い出の物大切にとっといてくれたのも、一応だけど、蓮さんともちゃんと挨拶出来たのも、全部嬉しかったっ!」
「そう言ってくれると俺も嬉しいよ! 蓮もなんだかんだ喜んでくれてたし、あんま怒られなかったしw今日は良い日だっ!!」
その後、終止にこやかムードで会話が続き、無事安積のマンションまでたどり着くと、大きく手を振り笑顔で消えていく安積に、月影も手を振り返し、笑顔で見送った。
安積の姿が完全に見えなくなると、月影はハンドルに両手を置き、アクセルを踏むでもなく、大きな溜め息と共に項垂れる。
静かに目を閉じると、静寂が自身を包みこむ。
静かなのは好きだ。
でも、今は辛い。
今日が良い日だと言った言葉は嘘ではない。
ないのだけど…
再び深い溜め息を落とし、重たい頭を上げると、アクセルを踏んだ月影が向かったその先はー
目的地に着いた月影は、慣れた手つきでインターフォンを鳴らし、暫く待つも、残念ながら応答はない。
連絡してみようかと携帯を取り出すが、もし仕事中なら出ることは出来ないだろう。
少し話しがしたくて来てみたものの、別に無理して話さなくてはならない事ではなく、話さずとも、自分自身で消化する事が出来ないわけではない。
出来ないわけではないのだけれど、少し辛い。
『もう1回、もう1回だけ鳴らして、出なかったら帰ろう』
再度インターフォンを押し、1歩下がると、頭の中で時間を数える。別にそれに意味はない。30秒程数えた辺りで小さく溜め息をつき、帰ろうと足を浮かせたその時、返答がないまま、唐突に玄関のドアが開いた。
「…わるい、寝てたわ。なに?なんか用?」
「ぁっ、ごめん、寝てたんだ。ごめんね、起こして」
気だるげな欠伸と共に姿を現したのは、旧友、長谷川鉄司だった。この時間帯なら起きているだろうと、大して気に止めてはいなかったのだが、寝ている時だって、たまにはあるだろう。
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