Pop Step

慰弦

文字の大きさ
上 下
1,077 / 1,142
- 28章 -

-憎悪と情愛-

しおりを挟む


「…とんでもない。私も本当の弟が出来たようで嬉しいですよ」

「俺もっ、俺もですっ! ほぼ一人っ子みたいに育ってきたし、ひじりと会えて、お義姉さんも出来るなんてっ、しかもこんな短期間でっ! 凄く嬉しいですっ!あっ、あとっ!もう1個!」

「なんでしょう?」

「俺の事、敬称なしで呼んで欲しいんですけど、駄目ですか? 」

「分かりました。ではこれからはせいと呼ばせていただきます」

「はいっ!! ありがとうございますっ!」


少しだけあった間が地味に気にはなるが、了承をもらえた事に、安積はホッと胸を撫で下ろす。

“さん”付けをされると、勝手なイメージ、可愛いらしいおばあちゃんが連想されるのがちょっと嫌だったのと、なんだか1線引かれたような距離感を感じてしまい嫌だったのだ。それ故本当は敬語も止めて欲しい所だが、兄に対しても敬語で話しているようなので、これが蓮の普通なのかもしれない。

誰に対しても敬語で話す人は、身近な友達にも居るし、それは別に距離を取る為、敬語を使っているわけではないのも勿論知っている。

蓮が敬語で話す事に理由があるのか、ないのかは分からず、これからもそうなのか、そうじゃなくなるのかは蓮次第であり、それは蓮に任せることにした。


「じゃぁ、今度こそ本当に帰ります! 遅い時間にお邪魔しましたっ!」

「いえ、お気をつけてお帰りください」


元気良く一礼すると満面の笑顔を残し、玄関から去って行く弟の勢いに置いていかれた兄は、若干の寂しさを感じつつも、急いで車の鍵を指で引っかけた。


「じゃぁ、送ってくるから!」

ひじり

「ぅん?」

「…貴方と結婚して良かった」

「……なんかそれ、ちょっと複雑なんだけど」


恍惚とした表情で弟の去った方向を見つめ、染々と言った様子で呟く嫁に、なんだか複雑な心情になる。弟を気に入ってくれたのは勿論嬉しいのだけど…

『俺も未熟だなぁ…』

彼女の1番が自分なのは分かっているのだけれど、信用していない訳でもないのだけれど、それでも感じる微かな独占欲や、複雑と言ってしまった発言を冗談で流せるよう、なんでもないように笑顔を作り彼女へと向ける。


「まぁ、あれねっ、可愛いでしょっ!? 俺の弟っ!」

「そうですね。とても可愛いです。無論、結婚して良かったと思うのはそれだけではないですが」

「……蓮と結婚して良かった」

「それはどうも」


早く追いかけないとと思いつつも、振り向き妻の体をギュッと抱き締めた。なにを言うわけでもなく、回し返される腕が胸を堪らなく締め上げる。


「…良かったですね。沢山話せて」

「うん」

「心残りなく、ちゃんと全部、話出来ましたか?」

「うん」

「…せいが優しい子で良かったですね」

「ほんとにね…」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

私の事を調べないで!

さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と 桜華の白龍としての姿をもつ 咲夜 バレないように過ごすが 転校生が来てから騒がしくなり みんなが私の事を調べだして… 表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓ https://picrew.me/image_maker/625951

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

チャラ男会計目指しました

岬ゆづ
BL
編入試験の時に出会った、あの人のタイプの人になれるように………… ――――――それを目指して1年3ヶ月 英華学園に高等部から編入した齋木 葵《サイキ アオイ 》は念願のチャラ男会計になれた 意中の相手に好きになってもらうためにチャラ男会計を目指した素は真面目で素直な主人公が王道学園でがんばる話です。 ※この小説はBL小説です。 苦手な方は見ないようにお願いします。 ※コメントでの誹謗中傷はお控えください。 初執筆初投稿のため、至らない点が多いと思いますが、よろしくお願いします。 他サイトにも掲載しています。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

処理中です...