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慰弦

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- 28章 -

-憎悪と情愛-

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絵本が本屋に並ぶまでなんて、今まで1度も考えたことはなかった。ざっくりとしか分からないと言った兄の説明だけでも、沢山の人が手を貸してくれているのが分かる。きっと、もっと沢山の人の手がかかって居るのかもしれない。

共に頭を悩ませ作家さんを支えてくれる人が居る。出来上がった物をより良いものにする為に、紙からこだわって考えてくれる人が居て、こだわり抜かれたまっさらな紙に、色を着け命を吹き込んでくれる人が居て、それを形にしてくれる人が居て、それを沢山の人の手に届くように考えてくれる人が居て…

こんなにも沢山の人が、“ 思いを形にしてくれる ”。

『…そっか、ひじりみたいに絵が描けなくても、服とか作れなくても、思いを形にする事って出来るんだ…』

それなら… 


「どうしたの? 急に?」

「あっ、いやっ、なんでもない! ちょっと気になっただけ!! 凄いねっ!そんな沢山の人のおかげで絵本が出来てるんだなんて、びっくりだよっ!」

「うん。1人では難しいけど、沢山の人の技術や知識のおかげで、良い物が出来るんだよねぇ。ほんと、ありがたいよ」


しみじみと言う兄に頷き返し、膝の上に置いたままの絵本へもう一度視線を落とすと、安積は密かに決意を固め、ゆっくりと閉じた。


「あのさっ」

「うん?」

「ありがとう!宝物って言って、大事に取っといてくれたの、すっごい嬉しかったっ!!」

「…ううん、どういたしまして」


和やかに笑い合い、話もちょうど途切れた所でゆっくりと立ち上がった。そんなに長くはかからないと言っていたけれど、なんだかんだ時間が経ってしまっている。

兄は気にしないかもしれないが、いつまでも居座っては蓮に申し訳ないと帰る旨を伝えると、笑顔で頷き、見送りの為、兄も立ち上がった。


「お帰りですか?」

「あっ、はい!長々すいませんでしたっ!」


2人並んで部屋を出た瞬間、リビングからかけられた声に反射的に背筋が伸びる。緊張とは違うが、シャンとした彼女の声や話し方に自然とそうなってしまう。


「起きててくれたんだ? ありがとう!」

「いえ、別に。 沢山、話せましたか?」
    

その問いに、寸分違わぬタイミングで視線を向けあった兄弟は、瞬間、眩しい程の笑顔を浮かべた。


「うん!」
「はいっ!」

「…そう。それは、良かったです」


嬉しそうに声を揃えた兄弟に、つられるように、そう笑顔で返した蓮は、見送りの為リビングを出ると、2人の元へと向かった、のだが…

『……えっ、なにっ??』

真っ直ぐに近づいてくる蓮の目線は、1ミリも外される事なく安積を捉え続け、そのあまりの真っ直ぐさに視線が反らせなくなる。
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