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慰弦

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- 28章 -

-憎悪と情愛-

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「これこれっ!」

「…うわっ、めちゃ懐かしっ!!まだあったんだこれっ!?すごっ!」


差し出された1冊の絵本を目にし、安積は驚きで歓喜の声を上げた。それは何度も何度も “ 耳にした ” 絵本であり、優しい兄の声が、何度も読み聞かせてくれた絵本だった。

冒険に出た少年が、様々な困難を乗り越え、その冒険記を、大人になった少年が自分の子供に読み聞かせている所で終わる、という物語で、今でもその全てをハッキリと覚えている。

少年がたどる冒険道にわくわくして、様々な困難を幾度も乗り越えていく強さや、立派な大人になり次世代に引き継いでいくその姿に憧れた、大好きな絵本だった。


「当時のは図書館から借りてたものだったから、あの時のではないんだけどね。来る度に読んで読んでってせがまれてたからさ。思い入れが強くて買っちゃったよねw」

「だって大好きだったんだもん!その節はいつもいつもありがとうございましたw」

「どういたしましたww」


読んであげようか?という兄の提案を、なんだか恥ずかしくて丁重に断ると、膝の上に置いてペラペラと読み進めていく。

イラストも話の内容も記憶にあるままで、頭の中に物語を読む兄の声までもが甦っていく。

10年以上も前の事なのに、絵本がこんなにも鮮明に当時の記憶を甦らせ、懐かしく暖かい気持ちをもたらしてくれるとは思わなかった。


「…凄いね、絵本って」

「ん?」

「ねぇ、ひじり。絵本ってどう作るの?」

「どうって… 個人制作ってこと?」

「個人…? えっと、こういう絵本が本屋さんに並ぶまでの…過程というか、そんな感じ?」

「あぁ、そーいう。過程…過程かぁー」


弟の唐突な質問に、月影は口元に手を当て首を傾げた。考え込むようにしばしそのままの姿勢で静止すると、ざっくりとしか分からないけど、と前置きを置いた。


「まず、絵本作家さんと編集者さんとで話し合いながら原画作って、場合によってはそれにデザイナーが文字入れして」

「デザイナー? ひじりの所でもやってるの?」


描くのも着色するのも、文字を描くのも、全て作家の仕事だと思っていた為、デザイナーという職業が出てくるとは思わなかった。


「うちは基本やらないかなぁ。知り合いのお願いで2~3回やった事があるくらい」

「そうなんだ?」

「うん。それを作家さんと編集者さんが校正、OKなら制作担当さんが編集者さんとか印刷所の人とかと相談しつつ、使う紙とか諸々決めて、印刷所に依頼して、印刷会社で印刷された物を製本かけて、出版社が売り出し方決めて…ポップとか、色々。で、本屋に並ぶ…んだと思う」

「そーなんだ。…なんか、結構色んな人が関わってるんだね」
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