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- 28章 -
-憎悪と情愛-
しおりを挟むそれでも
自分だけは弟との思い出を覚えておきたい。
確かにあった事だと、自分を救ってくれた、なにものにも変えられない、大切な時間だったと。
取っておいた理由は、思い出が沢山詰まっているからと言うのもあるけれど、もし寂しくなった時には、思い返して立ち上がれるように、会えなくても側に感じられるように、その為だった。
『…そんな情けないこと、言えないけどね』
難しい顔をして、珍しく言い淀む兄に、安積は微かな怒りを覚える。この怒りは、なにが原因なのだろう。良く分からない。自分の感情の答えが分からないまま、安積は思いのままに口を開いた。
「相手に忘れられた思い出なんて、悲しいじゃん。自分だけしか覚えてないなんて、悲しいよっ」
「……」
「俺にも残しておいて欲しかった。俺達の思い出なのに、1人じめしないでよっ…自分から居なくなろうとしないでよっ!」
「…ごめん」
「………」
『……あぁ、そっか』
口にして分かった。
先程感じた怒りの正体はこれだ。
幸せの為に、自分と父を切り捨てたとか
母の為に、悪者になり続けるとか
存在を消すかのように、様々な物を処分されても、恨み言1つも言わないところとか
まるで自分から1人になろうとしているようで。
切り捨てたのは辛かったと言っていた
悪者にだって、なりたくはなかっただろう。
やり直したかったとも言っていた。
本当は、家族の一員として居たかったはず。
そうならないように、努力もしていたはず。
それでも、全てが叶う事なく、それらを仕方なかったと、それで良かったんだと、諦めたように受け入れている姿が…
大好きな兄の、他者の幸せの為に、自己犠牲を常としたような、自分の気持ちを諦めてしまっているような、そんな生き方が嫌だ。
でも、あの時の状況下では、そうならざる終えなかったのかもしれない。
無理にでも受け入れ、納得しなくてはならなかったのかもしれない。
そうこうして居る内に、感覚が麻痺し、悲しみや苦しみに慣れてしまったのかもしれない。
しかし、正直兄の気持ちは分からなくはなかった。
自分が我慢する事で、他の人達が幸せになれるなら、きっと自分だってそうしてる。
事実、そう言う所は嫌いだと、市ノ瀬に怒られた事もあり、今更ながら、市ノ瀬の気持ちを痛い程実感する。
立場上、市ノ瀬がくれた言葉と同じ言葉を、兄へと言う事は出来なさそうだけれど、それならそれで、違うやり方だって勿論ある。
「……ねぇ、聖」
「なに?」
「これ、俺も欲しい」
「…もちろん、良いけど」
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