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慰弦

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- 28章 -

-憎悪と情愛-

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「…ごめん、綺麗に開けられないかも」

「良いよ、気にしなくて。開けようか?」

「ううん、自分で開けたい」

「そう?」


開けやすいようにか、ご丁寧に折られていたガムテープの端を掴み、ゆっくりと剥がしていくと、観音開きのように開き、出てきたそれに、そっと手を乗せた。

細かい傷がたくさんついていて
カラフルなクレヨンの後がまだ残っている
当時流行っていた戦隊物のシールまで貼られており、今の今まで忘れ去っていた記憶が甦り、懐かしさが込み上げてくる。

これはふりかけのオマケについていた物で、当時の自分が貼ったものだ。

汚れ剥がれかけたシール、傷にまで入り込んだクレヨンの跡に、そっと指を這わせた。

傷も、汚れも、全てが愛おしい。


「これは、ずるいなぁ……」


ここまで来てしまうと、もう我慢は無理だった。止めきれなかった涙がポタリと落ち、そっと兄の袖がそれを拭った。


「…なんか、昔もこんなことあった気がする」

「昔から感情豊かだからねぇ、せいは」


滲む視界に映るのは、身をめ自分を覗き込む兄の姿だ。昔からこうだ。いつもこうして目線をあわせ、優しく寄り添い、涙をふき、時には頭を撫でて、抱き締めてくれた。

変わらない兄の優しさに、どんどんと涙腺が崩壊していく。しかし嬉しく思う反面、自分の成長のなさに少し凹む。感情豊かと、良い言葉を使って言ってくれはしたけれど…

『今でも泣き虫って事だ。よなぁ…』

少しは大人にならないとと思ったりもするけれど…

昔、兄と一緒に描いた沢山の絵。
兄と一緒に折った折り紙達。
クレヨンをはみ出させてしまったローテーブル。

母に捨てられたと思っていた、思い出の品々。

そんなものを目の前にさせられては、きっと大人だって泣く。…と、思う。これはしょうがない。


「…今日さ、ひじりが出てってから、初めて、ひじりが使ってた部屋に入ったんだよね」

「えっ?初めて? それはそれで凄いね、自分の家なのに気にならなかったの?開かずの間」

「うーん、倉庫って言われてたし…なんか色々理由はあるけど、なんとなく入っちゃいけない気がして」

「なるほど」

「そしたらさ…」


ここまで来て言葉が詰まる。何もなかった部屋を見て自分がショックを受けたように、兄も傷つくのではないか。本人なら尚更、それは大きなものになるのではないか?

しかしそんな心配を他所に、世間話をするかのような軽快さで兄が笑った。


「なんもなかったでしょ?」

「…知ってたの?」

「うん」

「…悲しく、なかったの?」
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