Pop Step

慰弦

文字の大きさ
上 下
1,070 / 1,142
- 28章 -

-憎悪と情愛-

しおりを挟む


「…ごめん、綺麗に開けられないかも」

「良いよ、気にしなくて。開けようか?」

「ううん、自分で開けたい」

「そう?」


開けやすいようにか、ご丁寧に折られていたガムテープの端を掴み、ゆっくりと剥がしていくと、観音開きのように開き、出てきたそれに、そっと手を乗せた。

細かい傷がたくさんついていて
カラフルなクレヨンの後がまだ残っている
当時流行っていた戦隊物のシールまで貼られており、今の今まで忘れ去っていた記憶が甦り、懐かしさが込み上げてくる。

これはふりかけのオマケについていた物で、当時の自分が貼ったものだ。

汚れ剥がれかけたシール、傷にまで入り込んだクレヨンの跡に、そっと指を這わせた。

傷も、汚れも、全てが愛おしい。


「これは、ずるいなぁ……」


ここまで来てしまうと、もう我慢は無理だった。止めきれなかった涙がポタリと落ち、そっと兄の袖がそれを拭った。


「…なんか、昔もこんなことあった気がする」

「昔から感情豊かだからねぇ、せいは」


滲む視界に映るのは、身をめ自分を覗き込む兄の姿だ。昔からこうだ。いつもこうして目線をあわせ、優しく寄り添い、涙をふき、時には頭を撫でて、抱き締めてくれた。

変わらない兄の優しさに、どんどんと涙腺が崩壊していく。しかし嬉しく思う反面、自分の成長のなさに少し凹む。感情豊かと、良い言葉を使って言ってくれはしたけれど…

『今でも泣き虫って事だ。よなぁ…』

少しは大人にならないとと思ったりもするけれど…

昔、兄と一緒に描いた沢山の絵。
兄と一緒に折った折り紙達。
クレヨンをはみ出させてしまったローテーブル。

母に捨てられたと思っていた、思い出の品々。

そんなものを目の前にさせられては、きっと大人だって泣く。…と、思う。これはしょうがない。


「…今日さ、ひじりが出てってから、初めて、ひじりが使ってた部屋に入ったんだよね」

「えっ?初めて? それはそれで凄いね、自分の家なのに気にならなかったの?開かずの間」

「うーん、倉庫って言われてたし…なんか色々理由はあるけど、なんとなく入っちゃいけない気がして」

「なるほど」

「そしたらさ…」


ここまで来て言葉が詰まる。何もなかった部屋を見て自分がショックを受けたように、兄も傷つくのではないか。本人なら尚更、それは大きなものになるのではないか?

しかしそんな心配を他所に、世間話をするかのような軽快さで兄が笑った。


「なんもなかったでしょ?」

「…知ってたの?」

「うん」

「…悲しく、なかったの?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

チャラ男会計目指しました

岬ゆづ
BL
編入試験の時に出会った、あの人のタイプの人になれるように………… ――――――それを目指して1年3ヶ月 英華学園に高等部から編入した齋木 葵《サイキ アオイ 》は念願のチャラ男会計になれた 意中の相手に好きになってもらうためにチャラ男会計を目指した素は真面目で素直な主人公が王道学園でがんばる話です。 ※この小説はBL小説です。 苦手な方は見ないようにお願いします。 ※コメントでの誹謗中傷はお控えください。 初執筆初投稿のため、至らない点が多いと思いますが、よろしくお願いします。 他サイトにも掲載しています。

BlueRose

雨衣
BL
学園の人気者が集まる生徒会 しかし、その会計である直紘は前髪が長くメガネをかけており、あまり目立つとは言えない容姿をしていた。 その直紘には色々なウワサがあり…? アンチ王道気味です。 加筆&修正しました。 話思いついたら追加します。

処理中です...