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慰弦

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- 28章 -

-憎悪と情愛-

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これは、兄の生い立ちついて、自分が深刻に捉え気を遣いすぎているだけなのだろうか?それとも、兄が無理して、明るく振る舞っているのだろうか?

小さく鼻唄を歌いながら、クローゼットを漁る兄の様子からは伺い知れない。


「あっ、あったあったっ!!」

「あった?」

「うん!奥にしまっちゃってたから、取り出すのに時間かかっちゃったよ。ごめんね!」

「ううん、全然へーき」


謝りながらもキラキラと目を輝かせた兄が差し出したのは、大きめのファイルと、夢の国のお菓子が入っていたと思われる缶の入れ物、そして段ボールで梱包された、少し大きめの何かも同時に取り出していた。


「えっと、見ても良いの?」

「当たり前でしょ!!見せるために連れてきたんだしっ!見てみて!」

「うん」


取りあえず、開けるのに時間がかかりそうな段ボールは後回しにし、受け取った缶を横に置くと、ファイルを開いた。

そしてー


「…………」

「どう? 懐かしいでしょ?」


1ページ巡り、直ぐに手が止まる。

目にしたものは、予想を遥かに飛び越すもので、一気に様々な感情が押し寄せる。何故、どうして、と、震えそうになる手を誤魔化し、兄へと視線を投げると、柔らかな笑みが自分を出迎えた。

再びファイルへと視線を落とし、言葉も出ないまま、1ページ、また1ページと捲り、その度に目の奥がじんわりと熱くなり、喉がしまっていくような気がする。

一言も声を発する事が出来ないまま、長い時間をかけて最後のページまでたどり着くと、静かに閉じて、今度は恐る恐る缶へと手を伸ばした。

なにが入っているのかは全く検討はつかない。けれど、これもきっと、このファイルに関連したなにかなのだろう。

さして古い物ではないらしく、僅かな力でも、突っかかる事もなく、軽やかな音を立ててすんなりと開く。

が、開けきることなく1度手を止めた。

緊張からか喉が鳴る。
落ち着く為に1度息を吐きだし、ゆっくりと蓋を開けると、その中には、沢山の色が溢れていた。

1つづつ取り出し、側に並べてみる。そこにある大抵のものは、同じ形の物が2つづつあり、片方は綺麗な出来映えで、もう片方は、ちょっと残念な出来映えだった。

同じ物を対にして、少しボヤけ始めた視界で眺める。

ぎゅっと目をつぶり、沸き上がる嗚咽を堪え、何度目かも分からない深呼吸し顔を上げれば、少し視界も晴れた。そして最後に、もう1つの、まだ開けてない段ボールへと視線を向ける。

直ぐに意図を察してくれたようで、少し横にズレ2人の間にスペースを作った兄が、立て掛けてあった段ボールを置いた。

手を伸ばすが、指先が痺れて思うように動いてくれない。
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