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慰弦

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- 28章 -

-憎悪と情愛-

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「ありがとー!結構腕疲れるんだよねぇー」

「いや、別に良いんだけど…あのさ」

「うん?」

「バッサリいけとは言わないけど、もう少し短くしたら?」


鏡越しに向けられる呆れたような弟の目に、渋い顔をし、不満を込め小さく唸った。ちょくちょく痛みのでた毛先を切ったりはしているが、それ以外では、記憶にあるかぎり切った事はない。

手入れやなんや大変だと思うことはあっても、負けじとここまで伸ばしてきたのに、それを切るなんて…


「折角ここまで伸ばしたのにぃー?」

「それはそうかもだけど…皆びっくりしてるよ?」

「そうでしょそうでしょ!めちゃくちゃケア頑張ってるからね!!キューティクル凄いでしょ!」

「いや、確かにそれは凄いけど、皆驚いてるのそこじゃないから…」


本気でそう思っているのか、あえて話を反らしているのか…どちらにしても兄本人に切るつもりは毛頭なさそうだった。

『まぁ、本人が嫌なら切れとは言えないしなぁ』

しかし、本人も言っている通り、その髪は天使の輪がハッキリ浮かぶほど綺麗に手入れされており、染めたりなどは一切していないようだ。それももしかしたら、痛んでしまうからなのかもしれない。

『俺も見習うべきかな?』

金髪に近い程色を抜いているせいで、かなりダメージを受けているし、就職活動ともなれば、それを抜きにしても黒に戻すべきだろう。


「そうだ、せい!髪乾くまでまだまだ時間かかりそうだし、ちょっと昔話していーい?」

「えっ?…良いけど、なに急に? 昔話?」

「そ」


暖かなドライヤーの熱と、髪を乾かす優しい手に、今にも閉じてしまいそうになる瞼をなんとか持ち上げた月影は、戸惑いの表情を浮かべる弟へ精一杯の穏やかな笑顔を向ける。

只でさえ1度落ち、洗髪までしもらったのだ。寝てしまいそうになるのをなんとか堪える為、苦肉の策で昔話を持ちかけた。


「父さんが再婚したときの話」

「……再婚」

「あっ、暗い話じゃないから安心して!」


先程まではずっと暗い話が続いてたので、身構えるのも致し方ないだろう。安心させるように補足を入れる月影だったが、弟の顔は、どこか疑いが晴れないままだ。苦笑を浮かべると、古い記憶を手繰り寄せた。


「俺ね、エリシア……産みの母親の事は勿論記憶にはなかったんだけど、父さんが写真見せてくれて、沢山話も聞かせてくれてたから、自分の母親はこの人なんだって思ってたし、会うことは出来なくても、幸せそうに母さんの話をする父さんの姿が、すっごく大好きだったの」

「…凄く仲が良かったんだね」
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