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慰弦

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- 28章 -

-憎悪と情愛-

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「でもそれだと、俺とせいが交流を続けるのは難しそうだよねぇ」


自分が彼女の悪者で居る限り、自分達の関係を彼女が認める事は出来ないだろう。

いい加減逃げずに話し合う必要があるのかもしれない。

でも、出来るだろうか?
冷静に話をすることが出来れば、可能性は0じゃないのかも知れない。

憎く思う気持ちを隠すことは簡単だ。
問題はそんな事じゃない。

先程、夢で見た光景に飲まれそうになった。
頭が真っ白になり、足がすくみそうになった。
情けない事に、悔しいほどに、いまだ恐怖が頭に根付いているのだと実感させた。

力では彼女には負けないだろう。
でもそんな単純な話じゃない。

『どーしたものか…』


「…あのね」

「うん? なに?」


先程から黙りこくっていた弟の声に、即座に思考を切り替える。一緒に居られる時間が限られている弟と違い、自分の事を考える時間は何時間でもある。弟が伝えたいことがあるなら、今はそれを優先すべきだ。


「大人なら誰しも隠し事の1つや2つあるって、前に言ってたじゃん?」

「……あぁ、うん。むっ……そうだね?」


市ノ瀬の事で相談を受けた時だったか、そう言った話をした事があった気がする。睦月君の話をした時だよね、と言いかけるが、話しづらくなってしまったら申し訳ないと、なんとか引っ込めた。


「俺、母さんの言う通りに、ひじりと会わないなんて、もう絶対したくない」

「…うん」

「だから、それはしない。でも母さんには会ってない事にする」


弟の言葉に、申し訳なさと案著が同時に襲ってくる。

会っていない事にするなら、わざわざ自分が彼女と話をする必要はない。

でもそれだと、自分のせいで弟が嘘をつかなくてはいけなくなってしまう。

いつだって素直で真っ直ぐな弟に、そんな事をさせてしまうのは抵抗もあるし、不甲斐なさに申し訳なくなる。


「…出来れば、せいに嘘ついてほしくはないんだけど」

「なにそれ、俺には大人になるなってこと??w」

「いや、そう言う訳じゃなくて…」

「知ってる!!」


場を和ませようとしているのか、明るく話す弟のおかげで、沈みかけた気持ちにストップがかかる。意図しているのかどうかは分からないが、深刻になりすぎず、させすぎない、弟のそんな空気感に凄く助けられたのは紛れもない事実だった。

兄として不甲斐なさも感じるけれど、兄や弟、大人子供ではなく、単純に人としての経験値が弟の方が豊かだったのだろう。素直に感謝するべきだと、ひねくれそうになる感情を宥めた。
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