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慰弦

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- 28章 -

-憎悪と情愛-

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兄だって知りたくて知っているのではない。
責める事も出来ないし、するつもりもない。
が、やっぱり恥ずかしい……
もう少し自身を律して、平常心を保つ技術を獲得しなければ……


「…あのね、せい。これからの事なんだけど」

「あっ、うん」


少し和やかになりかけた空気だったが、これからについてという兄の言葉で、再び身が引き締まる。

現状に至るまでの、兄や家族の話を聞いて、正直まだ心の整理はついていないが、なんとなく、なりたい自分の姿は見えてきた気がする。

経緯を聞いて、当時の母の置かれた状況を知る事は出来たし、多少同情を感じる所もあった。精神を崩す程大変だった中でも、自分を産んで、しっかり育ててくれた事には、感謝している。

が、やはり何を聞いたところで、母のしたことを容認する事は、少したりとも出来ず、ありがた迷惑の中から、感謝の気持ちを探し出し、ありがとう、と思えるようになるまでは程遠そうだ。

自分と夫、子供の為に、兄に酷い事をし、追い出した事。その事に感謝する事は出来なくても、せめて子供…自分の為という動機には感謝出来るように。

難しそうだし、今はまだ出来る気もしない。
けれど、それでも母と子として上手くやっていきたいという思いは変わらなかった。

そして、兄と弟として一緒に居たいという思いも変わらない。

自分の母への思いは、焦った所でどうにかなる問題ではなく、時間をかけて解決していくしかない。だが、今直ぐにどうにかしないといけないのならば、少しくらい目をつぶる事なら出来そうな気がした。

そうなれば目下の問題は、やはり兄と交流を持つことを母に許してもらう事だ。

安積の想像以上に複雑な話で、2人の心情もきっと同じように複雑であり、そう簡単にはいかないだろう。

兄は、誰かの為でなく、自分の為にという指標を指し示してくれたけれど、その為にはやはり、2人の望みも尊重していかなければ駄目なのだ。

自分の幸せは、相手が幸せであること。
相手の幸せが、自分の幸せになること。

相手の為が、自分の為になるのだから。

そんな自分の考えを、いつだったか我が儘だと表したけれど、これは自分の根っこの部分にある信念のようなものなのかもしれない。

もし2人が和解することが出来れば。
それが2人の望みではないのなら、少しでも母が兄を許す事が出来れば。

兄が母を許し、感謝を示しているように
母と自分の関係をも大切に思ってくれているように
母も兄を許し、感謝は出来ずとも
せめて、自分と兄の関係を大切に思ってくれたなら
2人の望みを叶えた上で、自分の望みも叶うのではないか。

どんなに難しくても、きっと望みは0ではない筈だ。
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