Pop Step

慰弦

文字の大きさ
上 下
1,049 / 1,142
- 28章 -

-憎悪と情愛-

しおりを挟む


素直に感謝する事が出来ない自分に呆れて居るのだろうか?

兄にそういう目で見られるのは辛いけれど、それでも、母へ素直に感謝するのは難しそうで、母のどこに感謝出来るのかも正直分からない…


「確かに祐子さんの選択は、せいが望んでた事とは違う物だったから、感謝出来ないって気持ちは分かるよ。腹が立ったり、憎く思ったりもするかもしれないね。せいの為にって言っておきながら、せいを縛り付けるなんて、本末転倒だって、思うかもしれない」

「……母さんにも色々思うところがあったのは分かったけど、でも結局、自分の事しか考えられてなかったんだよ。あの人」

「………」


弟から発せられた、弟らしからぬ、他人行儀な母への呼び方に、思わず言葉が飲み込まれる。

誰に対しても優しく接し、欠点を否定する事もなく、良い所を見つけ肯定していく。そんな弟から発せられたその言葉には、初めて感じる程の憎しみや怒りが含まれている様に感じた。

誰だって、誰かにそういった感情を持つことはある。当たり前の事だ。でも、出来る限り弟にはそういう感情を持って欲しくない。

それが、唯一無二の自分の母親になら、尚更。
そんな悲しいことにはならないで欲しい。
本当の家族が居てくれるというのは、当たり前の事ではないのだから。


せいが、祐子さんの選択が間違ってるって思うのはしょうがないと思う。望んでない祐子さんの選択に感謝出来なくても、それもしょうがないとは思う。でも、 裕子さんの“ 子供の為に ” っていう思いには、感謝出来るようになれれば良いなって思うよ」

「…どうして?」

「その方が、せいが楽になるから」

「楽にって…よく、分からないよ」


誰かを憎んだり、誰かに怒りを覚えたり、誰かを否定したり、そういったマイナスの感情を抱え続けていくのは、精神を削り、すり減らしていくものだ。疲弊し、様々なものをどんどんと後ろ向きにしか取れなくなっていってしまう。

歯止めが効かなくなってしまう時だってある。

そんな辛く悲しい結末になってしまう可能性は、出来る限り潰しておきたい。どんな助言をしたところで、受け取り方も、自分の物に出来るかも本人次第であり、そう出来ない事もあり得る。

でも、沢山ある考え方の1つとして吸収し、視野を広げるだけでも、いつか役立つ時が来るかもしれないし、そうなって欲しいと思う。

それに、元々人を悪く言うことのない弟だ。
誰かに対しマイナスに感じてしまう自分自身にも、もしかしたら苦しんでしまうかもしれない。

説教くさくなって恐縮させてしまわないように、でも出来る限り伝わるようにと言葉を探していく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

私の事を調べないで!

さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と 桜華の白龍としての姿をもつ 咲夜 バレないように過ごすが 転校生が来てから騒がしくなり みんなが私の事を調べだして… 表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓ https://picrew.me/image_maker/625951

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

チャラ男会計目指しました

岬ゆづ
BL
編入試験の時に出会った、あの人のタイプの人になれるように………… ――――――それを目指して1年3ヶ月 英華学園に高等部から編入した齋木 葵《サイキ アオイ 》は念願のチャラ男会計になれた 意中の相手に好きになってもらうためにチャラ男会計を目指した素は真面目で素直な主人公が王道学園でがんばる話です。 ※この小説はBL小説です。 苦手な方は見ないようにお願いします。 ※コメントでの誹謗中傷はお控えください。 初執筆初投稿のため、至らない点が多いと思いますが、よろしくお願いします。 他サイトにも掲載しています。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

処理中です...