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- 28章 -
-憎悪と情愛-
しおりを挟む「あのね、聖」
「ん、なに?」
手で顔を覆い悶えていた兄が、指の隙間から弟へと視線を向ける。その姿に、お風呂を覗かれた国民的アニメのヒロインが頭に浮かび、突っ込みたくなる安積だったが、なんとなく今は違う気がして言葉を飲み込んだ 。
『睦月なら構わず突っ込むだろうなw』
なんて思いながら。
悶えていた余韻を残しながらも、優しげな笑みを浮かべた兄が、弟から天井へと視線を移し、何度かまばたきを繰り返すと、今度は少し迷いのある表情を浮かべる。
「これは祐子さんから直接聞いた話じゃないから、全部 “ らしい ” とか “ だって ” とかついちゃう、あまり確証のない話なんだけど、良いかな?」
「え? うん、全然大丈夫」
「分かった。じゃぁ、俺の知ってる祐子さんの話を少ししようか」
「……うん」
「俺を孤児院から連れ戻すって決めた時は、祐子さんも本当にやり直したいって思ってたんだって。今度こそ、ちゃんと良い母に、良い家族になろうって。でもやっぱり当時の不安とか、恐怖とかね、思い出しちゃって、うまく行かなくて」
「…そう」
正直、だからなんだと思ってしまう。再び家に帰って来た兄が、再び孤児院へと戻るまでの期間は、ほんの1年と少しだ。
その期間を考えれば、良い母、良い家族になりたいと、前向きで人の良い事を言ったところで、母が努力しただろう期間は短すぎる。
前向きな決意をしたのかもしれないが、そこにプラスな印象はもてない。…意識の弱さに呆れてしまうだけだ。
「だから、あまり部屋から出ないようにして、接触を持たないようにしてたのは、少しづつ時間をかけて、お互い歩み寄って行ける様にって、配慮だったの。…最初はね」
「…最初?」
わざわざ〝最初〟とつけると言うことは、時間の経過に伴い変わっていってしまったのか、その他にも理由が増えてしまったかのどちらかだろう。
復唱し問いかけてみるが、軽い笑みのみで流され、返答されることはなかった。
「愛したいのに愛せない、母になりたいのになれない、家族になりたいのに家族になれない、思うように出来ないもどかしさとか、自分の至らなさとかに、悩んで落ち込んでたんだって」
「…そう」
悩んで落ち込むなんて、善人も悪人も関係なく、誰にでも簡単に出来る事だ。重要なのはそこからの筈なのに、母のそこからは嘘でも正解だったなんて言えそうもない。批判の言葉が次々と脳裏を埋め着くし、口に出そうになってしまうのを何とか耐えた。
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