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- 28章 -
-憎悪と情愛-
しおりを挟む『いや、もしそうだとしても聖は気がついてなかった…っぽいし。…多分』
とぼけているのか、気がついてなかったのか、判断のつきかねる所だが、とぼけているのだとしたら、触れられたくない事なのかもしれない。
ならば、ここは触れないで置くのがベストだろう。
それに、配慮に欠けた自分の無意識な呟きで、あんな異変を起こさせる程、いつも明るく冷静な兄の心を乱してしまったのだとしたら…
『……ごめん。ごめん、ひじり』
「良いよ、気にしないで」
「え? …あっ!」
「あぁ、ぃや。ごめんってだけ伝わってきたから、なにに謝ってるのか正直よく分からないんだけど…でも、そこまで聖が申し訳なく思う事なんてされてないよ?大丈夫」
「……そっか。でも、ごめん」
「うん」
そうだった。すっかり頭から抜けてしまっていたが、兄は相手の心が読める、強い思いは勝手に流れ込んでくると、そう言っていたのだった。
今にして思えば、落ち込んだ時に向けられていた心配そうな視線や、何かあった時には、なにも言わずとも直ぐに手を差し伸べ、いつも助けてくれてたのは、その力のおかげなのかもしれない。
『俺が思ってる以上に、いつも気にかけて助けてくれてたんだな…』
自身の力を隠したまま、市ノ瀬の事を友人の話しとして相談を受けた時々は、さぞ驚かせ、気まずかった事だろう。ごめんなさいしかない…
しかしそれならば、あの時兄がくれた言葉は、嘘偽りのない、自分の本心を知った上でくれた言葉だと言う事になるだろう。市ノ瀬との関係を、心から応援してくれたのだと思うと、改めて、猛烈に嬉しくなる。
正直、どこまで知られてしまったのかは、気になる所ではあるけれど…それを知ってしまったら、恥ずかしさで自分がどうなってしまいそうでちょっと怖い。
きっと、兄もそれを分かった上で口にする言葉を選んでくれているのだろうし、あまり深く考えないようにしようと心に決めた。
それでも、手を煩わせたのも、沢山助けてもらったのも事実であり、改めて感謝と謝罪は伝えたい…と思ったのだけれど…その時の事を今更口頭で伝えるのは少し恥ずかしくて…
『あの時はごめんねっ、聖!…でも、ありがとうっ!大好きっ!!』
伝わるか分からないけれど、ぎゅっと目を閉じ、伝われ伝われと思いながら心の中で念じてみる。
「…どう、いたしましてっ……~っあぁ、もう!!尊っ!好きっ!可愛いっ!!」
「かわっ……まぁ、あり、がとう」
…どうやら思いは伝わったようだ。
反応はちょっと大袈裟だとは思うけれど、喜んでもらえたなら、それに越したことはない。
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