Pop Step

慰弦

文字の大きさ
上 下
1,043 / 1,142
- 28章 -

-憎悪と情愛-

しおりを挟む


『いや、もしそうだとしてもひじりは気がついてなかった…っぽいし。…多分』

とぼけているのか、気がついてなかったのか、判断のつきかねる所だが、とぼけているのだとしたら、触れられたくない事なのかもしれない。

ならば、ここは触れないで置くのがベストだろう。

それに、配慮に欠けた自分の無意識な呟きで、あんな異変を起こさせる程、いつも明るく冷静な兄の心を乱してしまったのだとしたら…

『……ごめん。ごめん、ひじり』


「良いよ、気にしないで」

「え? …あっ!」

「あぁ、ぃや。ごめんってだけ伝わってきたから、なにに謝ってるのか正直よく分からないんだけど…でも、そこまでせいが申し訳なく思う事なんてされてないよ?大丈夫」

「……そっか。でも、ごめん」

「うん」


そうだった。すっかり頭から抜けてしまっていたが、兄は相手の心が読める、強い思いは勝手に流れ込んでくると、そう言っていたのだった。

今にして思えば、落ち込んだ時に向けられていた心配そうな視線や、何かあった時には、なにも言わずとも直ぐに手を差し伸べ、いつも助けてくれてたのは、その力のおかげなのかもしれない。

『俺が思ってる以上に、いつも気にかけて助けてくれてたんだな…』

自身の力を隠したまま、市ノ瀬の事を友人の話しとして相談を受けた時々は、さぞ驚かせ、気まずかった事だろう。ごめんなさいしかない…

しかしそれならば、あの時兄がくれた言葉は、嘘偽りのない、自分の本心を知った上でくれた言葉だと言う事になるだろう。市ノ瀬との関係を、心から応援してくれたのだと思うと、改めて、猛烈に嬉しくなる。

正直、どこまで知られてしまったのかは、気になる所ではあるけれど…それを知ってしまったら、恥ずかしさで自分がどうなってしまいそうでちょっと怖い。

きっと、兄もそれを分かった上で口にする言葉を選んでくれているのだろうし、あまり深く考えないようにしようと心に決めた。

それでも、手を煩わせたのも、沢山助けてもらったのも事実であり、改めて感謝と謝罪は伝えたい…と思ったのだけれど…その時の事を今更口頭で伝えるのは少し恥ずかしくて…

『あの時はごめんねっ、ひじり!…でも、ありがとうっ!大好きっ!!』

伝わるか分からないけれど、ぎゅっと目を閉じ、伝われ伝われと思いながら心の中で念じてみる。


「…どう、いたしましてっ……~っあぁ、もう!!尊っ!好きっ!可愛いっ!!」

「かわっ……まぁ、あり、がとう」


…どうやら思いは伝わったようだ。
反応はちょっと大袈裟だとは思うけれど、喜んでもらえたなら、それに越したことはない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

チャラ男会計目指しました

岬ゆづ
BL
編入試験の時に出会った、あの人のタイプの人になれるように………… ――――――それを目指して1年3ヶ月 英華学園に高等部から編入した齋木 葵《サイキ アオイ 》は念願のチャラ男会計になれた 意中の相手に好きになってもらうためにチャラ男会計を目指した素は真面目で素直な主人公が王道学園でがんばる話です。 ※この小説はBL小説です。 苦手な方は見ないようにお願いします。 ※コメントでの誹謗中傷はお控えください。 初執筆初投稿のため、至らない点が多いと思いますが、よろしくお願いします。 他サイトにも掲載しています。

BlueRose

雨衣
BL
学園の人気者が集まる生徒会 しかし、その会計である直紘は前髪が長くメガネをかけており、あまり目立つとは言えない容姿をしていた。 その直紘には色々なウワサがあり…? アンチ王道気味です。 加筆&修正しました。 話思いついたら追加します。

美しき父親の誘惑に、今宵も息子は抗えない

すいかちゃん
BL
大学生の数馬には、人には言えない秘密があった。それは、実の父親から身体の関係を強いられている事だ。次第に心まで父親に取り込まれそうになった数馬は、彼女を作り父親との関係にピリオドを打とうとする。だが、父の誘惑は止まる事はなかった。 実の親子による禁断の関係です。

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

処理中です...