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慰弦

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- 28章 -

-憎悪と情愛-

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それでも、弟のそんな様子を可愛らしく思ってしまう自分は、意外と図太く生きられているのかもしれないと、ほんの少し、上手く生きて行けているのだと、嬉しくもあった。

それはさておき、気落ちしている暇があるのなら前へ進むべきだ。大丈夫、今の自分なら出来る筈だ。なにを言われたって大丈夫な筈だと、月影は出来る限り安心して貰えるように、優しく返事をする。


「うん、大丈夫だよ」

「…ありがとう。じゃぁ、あのさ…孤児院に行った後、さ。どうしてまた家に帰ってきてくれたの?辛い思い、した筈なのに…」

「そんなの、せいに会いたかったからに決まってるじゃないっ!!」

「えっ?……それ、だけ?」


先程の事などまるでなかったように、と、元気良くカラッと答える、予想外の兄に、弟もとし、仲良く数秒見つめあった。


「それだけ、って…悲しっ!?どれだけ俺がせいに会いたいって思ってたと思ってるのっ!?」

「それは…分からないけど…でも…」

「なるほど、俺の愛が伝わってなかったって事ね…ぃやっ、俺が伝え足りてないだけかな? やだ及第点っ!!もっと頑張らないとっ!」

「いや、大丈夫っ!愛はすっごい伝わってるっ!いつもありがとうっ!!すっごく嬉しいし…この先も、そー思ってもらえたら、もっと嬉しい…って思う」

「……えっ、なに? 尊…!」


急に空気を変えた兄が、悪ふざけしているような、いつものノリで言うものだから、どんなノリで返せば良いのか分からなくなり、変なことを口走ってしまった気がする…が、それは取りあえず置いておく事にした。

別になにも問題はないだろう。兄だし。


「いや…だって、ほら…。そん時は、まだ1度も会った事もなかったし…酷いことした人の子供なのに。会いたいって…思うかなって」

「思うに決まってるじゃない。俺と同じ、父さんの子だよ。 大事な家族で、大事な弟だよ」

「……」


見なくても声色で分かる。その言葉が悪ノリではなく、本心からのものだと。穏やかな笑みを浮かべているであろう兄を肌で感じつつ、静かに目を閉じた。

母は違えど、確かに自分達は、同じ父親を持つ、血の繋がった兄弟だ。父と、父が愛した人達の、愛の形だ。

細か事とはなしにして、兄にとってはただそれだけでも、会いたいと願うには十分な理由だったのかもしれない。

自分だったらどうだっただろうかと考えてみるが、兄の境遇に自分を置き換える事は難しそうで、直ぐに答えを出すことは出来なかった。
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