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- 28章 -
-憎悪と情愛-
しおりを挟む兄からこんな諫言めいた事を言われたのは、初めてかもしれない。厳しめな言葉にスッと頭が冷え、まるで霜焼けのように体が熱くなっていく。
「謝ることないよ。ごめんね、俺も言い方キツかったかも」
少し落ち込んだように謝罪する兄の様子に、安積は気付く余裕もなく、情けなさで逃げてしまいたくなる気持ちを落ち着ける事に神経をそそいぐ。
こういう時こそ頭を落ち着かせてきちんと考えないと、後々後悔するのは自分自身だ。冷静に、冷静にと小さく息を吐き出した。
兄の言葉を頭の中で反芻させてみれば、まったく理解できない話ではなかった。安積自身も、兄と会っている事は母に言わない方が良いと、秘密にしていたのだから。
「…ぅうん。叱ってくれて、ありがとぅ」
「意地悪で教えないんじゃないよ?除け者にしたわけでもないの。それは、分かってほしいな。…悲しい思いさせてごめんね」
そしてそれは、兄の言うとおり、意地悪ではなく、自分達の関係をより良く保つ為のものであり、嫌な思いをさせないようにという、相手への思いやりからだ。
それに気がついてしまうと、自分のなんと子供なことか…子供じゃないと言うこと自体が、子供だと言っているようなものだった。
「…俺こそ、八つ当たりっぽくなってごめん」
「うぅん、気にしないで。聖がそう思っちゃうのも、分からなくもないしさ」
『……除け者。そっか、それかも…』
自分の感じていた、良く分からないこの異様な苛立ちは、子供扱いされた事だけではなく、除け者にされた気がして悲しかったのかもしれない。兄からすれば、別に教えを説いた訳ではなく、気づかいや慰めの言葉だったのかもしれないが、そのおかげでまた1つ自分を知ることが出来た。
多分、こうして自分を知っていく事で自身を律する事が出来るように…大人になって行けるのかもしれない。
『その上八つ当たりなんて…情けなさすぎだな、俺』
苛立ちが急速に反省の色へと変わり、隣で落ち着いていく弟の気配を感じながら、内心ほっと心弛んだ。
しかし同時に反省も押し寄せてくる。
話せる事は全て話すと言いはしたが、いきなり話せない事を突いてくるとは思わなかった。動揺を押し留めうまく交わしはしたけれど、思いの外キツイ言い方になってしまった。
言った事に間違いはないと思うけれど、もっと良い言い方があったかもしれない。
「…あの、さ。あと1つ、聞いてもへーき?」
おずおずと聞いてくるその様子に、やはりキツすぎたか…と月影は1人密かに気落ちする。もっと余裕をもってしっかりと話してあげたいのに、当時に記憶を馳せる度感情が波打ち上手く出来ない。及第点がありすぎだ。
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