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慰弦

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- 28章 -

-憎悪と情愛-

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でもこの機を逃したら、もう2度と聞くことは出来ないかもしれない。縦しんば再び聞く事が出来たとしても、何度も繰り返し辛い記憶と向き合わせるような事なんてしたくはない。

それなら今、全て聞いて終わらせてしまった方が良い。全部終わらせようと言った兄の言葉からも、なんとなくだがそんな意図が含まれている気がして…

辛い話を続けさせてしまう事に申し訳なさを感じながらも、慎重に言葉を探していく。


「じゃぁさ、ずっと気になってたんだけど」

「うん」

ひじりのお腹の傷ってなn」

「秘密」

「ひみっ…」


その傷に気がついたのは、今日ではなく、だいぶ前の事だった。普通に暮らしていれば残りそうもない傷跡がなにかと問うのは、兄の歩んできた道を考えると、どうしても浮かんでしまう嫌な想像に、聞くに聞けないでいた、かなり勇気のいる事だった。

のだが…

秒で返された返事に思わず見つめあった。


「たっ、たった今全部話すって言ったばっかじゃん!?」

「話せることはって言ったよ?」

「いっ……た、けどさ…確かに。じゃぁ、せめて、母さんに関係あるかどうかくらいは」

「秘密」

「…そこまで言わないって事はもう確定じゃん」

「そんな事ないでしょ?関係ない可能性も、あるかもしれない可能性もあるって事だよ」

「……なんで教えてくれないの?」

せいは知らなくて良いことだから」

「俺はって…」


思いもよらず、今日母と交わしたばかりの言葉と同じものが、兄の口から放たれたことで、収まっていた筈の母への怒りが再度顔を出し、頭がカッと赤く染まっていく。

なんでこんなにも腹が立つのか、自分でも良く分からない。


「馬鹿にしないでよっ!! 2人に比べたら俺なんてまだまだ子供かもしれないけどさっ!でもちゃんと聞いて考えて自分で判断する事だってちゃんと出来るよっ!?そこまで子供じゃないしっ!なのにどうして皆してっー」


1度言葉に出しはじめてしまうと、胸に沸き上がり腸を煮え繰り返す思いが、どんどんと膨らんで行ってしまう。

自分の口から流れ続ける、半ば八つ当たりに近い言葉は、駄目だと分かっているのに、その意思に反して止まってくれそうもなくてー

そんな走り出した感情を止めたのは、兄の指先たった1つだった。

スッと差し出された指が自分の唇にふれ、唐突なその行動に言葉が飲み込まれる。


「そうじゃない。大人なら、言わなくて良いこと、知らなくて良いこと、不完全燃焼でも、それを理解して受け入れる事も、時には必要だってこと」

「……」

「大人になりたいなら、感情的にならないで、落ち着いて話、しよう」

「……ごめん、なさぃ」
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