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慰弦

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- 28章 -

-憎悪と情愛-

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マタニティーブルーや産後うつと言う言葉は聞いた事はあったのだけれど、妊娠うつというものがあると知ったのは、情けない事にだいぶ後になってからの話だ。

鬱というものは気の持ちようだけでならずに済むものでも治るものでもない。ストレスが原因となる脳の病気だ。

当時の自分がその事を知っていたとしても、理解出来たかは怪しいが、それでも彼女にそうなってしまう程のストレスを与えたのは、自分であることには間違いはない。


「ホルモンバランスの崩れも原因ではあるんだけど…1番の原因は俺なの。止めてって言われてたのに、家でも外でもお構い無しに、誰も居ない所に向かって話しててさ。そのせいで祐子さんにも奇異の目が向けられて、それだけじゃなくて、そこに何かが居るのかもって恐怖とか、俺自身になにか病気があるのかもって心配とか、この状況で無事に子供が産まれて来るのかもとか…産まれても、俺みたいなのと一緒でちゃんと育ててあげられるのか、とかね。色々とストレスになっちゃってて」

「…………」

「まぁ、その他にも色々とあって、結局孤児院に行く事になって、その後に無事せいは産まれた訳だけど…せいは自分が早産だったの、知ってるよね?」

「え?……うん」


自分が早産だったことは、誕生日がバレンタインと言うことで弄られた事を愚痴った際に教えて貰いはしたが、理由までは深く聞いたことがなかった。

そこに兄が関係してくるなんて思ってもなかった。


「もしかしたら、俺のせいでせいが産まれなかった可能性だってあったの。せいはそんな事でって思うかもしれないけど、祐子さんにとっては、実際に体に影響を及ぼす程のストレスで、無事に産まれたとしても子供に…せいになんらかの障害が残る可能性だってあった。…今せいが健康に生きていられるのは、祐子さんが頑張ってくれたから。頑張って家族を守ろうとしてくれたからだよ」

「……でも、そうだと、したって。ひじりだって、家族なのに…どーして」


弟の口から発せられる未完成な文章や、流れ込んでくる感情が、新たに知り得た事実に頭の中がこんがらがっているのを、ありありと示していた。

無理もない。

実際に見て体験した事ではなく、自分の中にはない、聞いただけの誰かの感情を飲み込むのは、とても難しいことだ。

それでも、少しでも、弟の中の母のマイナス面が薄らいでくれたらと、願うしかない。


「家族、ね。まぁ、確かに、俺も裕子さんも家族になろうと努力はしてた。でも、俺は家族になれなかった。家族じゃないの」

「え?」
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