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- 28章 -
-憎悪と情愛-
しおりを挟む話をしながら当時の記憶をたどってみる。
妻に先立たれ、そこから動くことも出来ず、息子にも会いに行けないと泣いていたあの人は、嬉しそうな誘い声を出し、自分を抱き締めたあの人は、結局どうなってしまったんだろうか?
自分が孤児院に連れていかれ、再度戻ってきた時には居なくなってしまっていたので、知りようがなかった。
しかし、死んで居たとしてもなんらおかしくなかったあの怪我で、連れていかれたとしてもおかしくなかったあの状況で、何故自分は助かったのだろうか?
あんなにも嬉しそうに、
“一緒にいこう” と言ったのに。
もし、逝こう ではなく行こう だったのだとしたらー
あの地獄の様な日々から、救い出そうとしてくれた言葉だったのだとしたら…
現状から抜け出し、幸せな未来へ共に歩き出そう。
そういう意味が込められていたのだったら?
『私はあの世で、そなたは現世で幸せに暮らそう、みたいな? …なんてね。まぁ、なにかに乗って会いには来てくれなかったけどw』
とはいえ、いくら好き勝手考えた所で、もう真実を知ることは出来ないし、継母との関係が修復不可能な程に壊れるきっかけでもあった為、少々複雑な所だけれど。
なにはともあれ、成仏と言う現象が実際にあるのかは分からないが、今となっては、ただただ心休まる所に行けた事を願うしかない。
「祐子さんってさ、お化けとさ幽霊とか、凄く苦手な人じゃない?だからそういうの止めてって言われててさ。最初はそうしようとは思ったんだよね、ちゃんと。でも俺には視えてるわけだし、それまで沢山話聞いてくれてたし…無視すると悲しそうにするから、どうしても出来なくてさ…」
「…そっか。聖からしたらそのおじいさんも、生きてる人と変わらない…って感じだったんだな?」
「そうそう。で、おじいさんと話すようになって2年くらい…かな?確か。祐子さんが聖を身籠ったの。経験したことないし、する事も出来ないから、本当の意味で理解してあげることは出来ないんだけど…祐子さん、悪阻酷かったみたいでね。ご飯も食べられないし、寝られないし、常に情緒不安定だったみたいで…妊娠うつ状態になっちゃってたんだって」
「妊娠…うつ」
「そう」
情けないことに、マタニティーブルーや産後うつと言う言葉は聞いたことはあったのだけれど、妊娠うつというものがあると知ったのは、だいぶ後になってからの話だ。
鬱というものは気の持ちようだけでならずに済むものでも治るものでもない。ストレスが原因となる脳の病気だ。
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