Pop Step

慰弦

文字の大きさ
上 下
1,025 / 1,142
- 28章 -

-憎悪と情愛-

しおりを挟む


逸る気持ちを抑え兄の動向をうかがっていると、ゆっくりと片手を持ち上げなにもない湯船を指差した。


「あそこ」

「ぅん?」

「ちょっと見てて」

「えっ、うん?」

「………」

「……………」

「……あっ…あぁ、駄目だったか」

「えっ、なにが??」

「んー………ちょっと待ってねぇ」

「ぅ、うん?」


……一体なにを見せられようとしているのだろうか?なにかを追うように動く兄の視線を、同じように追いかけてみるが、特になにかがあるわけではない。


「………凄いね、もっと出来るの?」

「は??」

「あぁ、ごめん。なんでもない。せい、あそこ見てて」

「……うん」


今1度湯船を差した兄の指先を追い、言われるがままにその箇所を見つめる。

が、やはりそこにはなにもなく、仲良く並び微動だにもせず、水面を凝視する自分達が居るだけだ。

動きを見せるものといえば、時折吹く風に揺れる葉と、循環する湯の緩やかな流れだけ。

ただただ、それを耳で感じ目で追う。
それだけの時間が刻々とすぎていく。


「ねっ、ねぇ…ひじり?」


兄がなにを見せようとしているのか。たまらず問おうとしたその時だった。兄が指差した場所。その水面から20cm程の小さな水飛沫が上がった。


「っ!?」

「凄いっ!有言実行っ!カッコいいねぇー!」

「はぁっ!? え、えぇっ??」

「 あっ、あぁ、ごめんごめん、こっちの話w」

「やっ、こっちの話って…今の、なに?」

「今のはねぇ、子供が遊んでたんだよ」

「………はい?」

「本当は屋根まで届くくらい大きく水飛沫上がってたんだけど…やっぱり現実のものを動かすのは同調しても難しいみたい」

「ちょ……と、待って、理解追い付かないんだけど」


起こった出来事も、兄の言う説明も、なに一つ理解が追い付かない。いくら見たってそこには何もないし、誰も居ない。

でも、水飛沫が上がったのは、自分の目で見た確かなもので…


「…もしかして、ひじりって」

「ん?」

「……超能力、使える、とか?」

「ちょうのぉ……成る程、その発想はなかったなぁw」


可笑しそうに笑う兄に二の次が告げない。確かに自分で言っていて非科学的すぎるとは思うけれど、でも実際に目にしたのはそうとしか思えない事で…


「前にさ、俺は普通じゃないんだよって話したことあったでしょ?」

「…うん」

「普通の人が視えない者が視える。それが俺の普通じゃない所だよ」


普通じゃない者が視える。
普通じゃない者が視える。

すんなりと入り込んでこない言葉の意味を頭の中で復唱し、目にしたもの、兄が口にした子供という言葉も含め少しずつ整理していく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

私の事を調べないで!

さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と 桜華の白龍としての姿をもつ 咲夜 バレないように過ごすが 転校生が来てから騒がしくなり みんなが私の事を調べだして… 表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓ https://picrew.me/image_maker/625951

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

チャラ男会計目指しました

岬ゆづ
BL
編入試験の時に出会った、あの人のタイプの人になれるように………… ――――――それを目指して1年3ヶ月 英華学園に高等部から編入した齋木 葵《サイキ アオイ 》は念願のチャラ男会計になれた 意中の相手に好きになってもらうためにチャラ男会計を目指した素は真面目で素直な主人公が王道学園でがんばる話です。 ※この小説はBL小説です。 苦手な方は見ないようにお願いします。 ※コメントでの誹謗中傷はお控えください。 初執筆初投稿のため、至らない点が多いと思いますが、よろしくお願いします。 他サイトにも掲載しています。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

処理中です...