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- 28章 -
-憎悪と情愛-
しおりを挟む逸る気持ちを抑え兄の動向をうかがっていると、ゆっくりと片手を持ち上げなにもない湯船を指差した。
「あそこ」
「ぅん?」
「ちょっと見てて」
「えっ、うん?」
「………」
「……………」
「……あっ…あぁ、駄目だったか」
「えっ、なにが??」
「んー………ちょっと待ってねぇ」
「ぅ、うん?」
……一体なにを見せられようとしているのだろうか?なにかを追うように動く兄の視線を、同じように追いかけてみるが、特になにかがあるわけではない。
「………凄いね、もっと出来るの?」
「は??」
「あぁ、ごめん。なんでもない。聖、あそこ見てて」
「……うん」
今1度湯船を差した兄の指先を追い、言われるがままにその箇所を見つめる。
が、やはりそこにはなにもなく、仲良く並び微動だにもせず、水面を凝視する自分達が居るだけだ。
動きを見せるものといえば、時折吹く風に揺れる葉と、循環する湯の緩やかな流れだけ。
ただただ、それを耳で感じ目で追う。
それだけの時間が刻々とすぎていく。
「ねっ、ねぇ…聖?」
兄がなにを見せようとしているのか。たまらず問おうとしたその時だった。兄が指差した場所。その水面から20cm程の小さな水飛沫が上がった。
「っ!?」
「凄いっ!有言実行っ!カッコいいねぇー!」
「はぁっ!? え、えぇっ??」
「 あっ、あぁ、ごめんごめん、こっちの話w」
「やっ、こっちの話って…今の、なに?」
「今のはねぇ、子供が遊んでたんだよ」
「………はい?」
「本当は屋根まで届くくらい大きく水飛沫上がってたんだけど…やっぱり現実のものを動かすのは同調しても難しいみたい」
「ちょ……と、待って、理解追い付かないんだけど」
起こった出来事も、兄の言う説明も、なに一つ理解が追い付かない。いくら見たってそこには何もないし、誰も居ない。
でも、水飛沫が上がったのは、自分の目で見た確かなもので…
「…もしかして、聖って」
「ん?」
「……超能力、使える、とか?」
「ちょうのぉ……成る程、その発想はなかったなぁw」
可笑しそうに笑う兄に二の次が告げない。確かに自分で言っていて非科学的すぎるとは思うけれど、でも実際に目にしたのはそうとしか思えない事で…
「前にさ、俺は普通じゃないんだよって話したことあったでしょ?」
「…うん」
「普通の人が視えない者が視える。それが俺の普通じゃない所だよ」
普通じゃない者が視える。
普通じゃない者が視える。
すんなりと入り込んでこない言葉の意味を頭の中で復唱し、目にしたもの、兄が口にした子供という言葉も含め少しずつ整理していく。
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