1,021 / 1,142
- 28章 -
-憎悪と情愛-
しおりを挟む絶対なんてモノはこの世にはない。
迷うことなく否定する弟に、そんな言葉を言いかけてグッと飲み込んだ。
真っ直ぐな弟の言葉を否定する事はしたくなかった。
その言葉が覆る可能性も考えたくなかった。
それでも…
言ってしまった自身の発言に縛られて欲しくはない。
事実を伝えてしまったら、怖がらせてしまうかもしれないし、最低だと思わせてしまうかもしれない。今のように、一緒に居られなくなるかもしれない。
勿論それは悲しいけれど、弟が母を嫌いになってしまうかもしれない未来が訪れないで欲しいと願うのも、無理だと思ったらちゃんと自分から逃げて欲しいと願うのも、本心だ。
「分かった。でも、もし聖がそう思っちゃったとしても、責めたりはしないから…したいようにしてね」
「……うん」
その時は、少しでも罪悪感を感じないで欲しい。そんな思いから保険ともとれる言葉を伝えると、体を少し傾かせ弟へと向き直った。
「…この冬休みで」
「えっ?うん?」
「一番思い出に残った事ってなに?」
「おもい、で?」
「あぁ、言わなくて良いよ?考えてみて」
「うっ、うん??」
唐突な質問に、おおいに戸惑った表情を浮かべた弟は、思案するかのように目をさ迷わせた。きっと1番の思い出なら、本調子でない今の自分にでも感じ取れるはずだtー……
「せっ、聖っ!!ちょっと待ったっ!!」
「Σ えっ!? なっ、なになにっ??」
「………あの、やっぱり、2番目でお願い」
「にっ、2番目?? にばん、め、2番目…」
ぶわっと流れ込んできた1番の思い出は、兄としても衝撃的過ぎたというか…なんというか…
『いやっ…、恋愛成就は喜ばしい事なんだけどさっ…ちょっと早すぎじゃないっ!?というか…まさか過ぎる…っていうかそれが1番なのっ!?いやっ、でも思春期真っ只中だししょうがないのかっ!? とっ、取りあえず…これはっ』
これを知ってしまのは、色々まずい気がする……
片手で口元を覆い、動揺する気持ちをなんとか落ち着かせると、頭を切り替えもう一度意識を集中させてみる。
それでもちらつく弟の1番の思い出に、負けじと全力で意識をそらし、次第に見えてきた2番目の思い出に安堵の溜め息をつく。
『まぁ…これなら…』
「あの、聖?」
「あっ、ごめん、なに?」
「なに、ってゆーか、考えてって、なんなんだろうって?」
「あー……ごめん、そうだよね。突然言われてもって感じだよね。えーっと……」
うかがうように自分を見る弟の顔が、気まず恥ずかしで直視できない…。悟られないように天井を向いたまま言葉を探していく。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。


初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。


美しき父親の誘惑に、今宵も息子は抗えない
すいかちゃん
BL
大学生の数馬には、人には言えない秘密があった。それは、実の父親から身体の関係を強いられている事だ。次第に心まで父親に取り込まれそうになった数馬は、彼女を作り父親との関係にピリオドを打とうとする。だが、父の誘惑は止まる事はなかった。
実の親子による禁断の関係です。


目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる