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- 28章 -
-憎悪と情愛-
しおりを挟むバツの悪い顔をし言葉をなくす弟の素直さに、思わず小さな笑いをもらすと、むくれたように頬を膨らまし、逆方向へと顔を背けてしまった。
「ごめんごめん、聖があまりにも可愛かったからw」
「笑わないでよもー…真剣に悩んでんだから」
「そーだよね、分かるよ。ありがとうね」
「…… ありがとう?」
「あぁ、いや、なんでもない。こっちの話」
少し休めたお陰か、なんとなく分かってしまった。
弟の言う悲しませる人と言うのは自分の事だ。
その優しさに思わずお礼を口にしてしまったが、弟からしたらなんのこっちゃと言う話であって…
昔、普通に生きたいなら気を付けろと言われた事がある。それ以降気をつけては居るのだけれど…まぁ、ご愛敬と言うことで流して欲しいところである。
「それで?」
「ぅん?」
「何があったの?」
「……それは」
「悲しませる人って、俺の事?」
「…………」
その無言はもはや肯定ととっても間違いないだろう。自分の事で継母と弟の関係が悪くなってしまうのは本意ではない。父も含め安積家に、弟に幸せになって欲しい。だからこそ会わないで居たのだが、運命の悪戯か、それとも運命だったのか、再び巡り会ってしまった。
交流を続けること、弟に兄だと伝えることに迷いもあったけれど、継母がこの巡り合わせを知らない限りは何も問題はないと思っていた。
一時は会ってちゃんと話そうかと思いもしたが…
結局は思い直し実現させることはなかった。言わない方が良いことだってある。
そもそも継母が自分の話を持ち出すとは思えない。話たくもないだろうし、思い浮かべる事すらしたくないだろう。こらからアクションを起こさなければ、今まで通り平穏が保てるはず。
だった。
それなのに、こうなってしまったのはー
「ごめん…聖」
「ん?」
「…母さんに、聖と会ったっていっちゃった」
「…そっか。良いよ、謝らなくて。俺も口止めしてたわけじゃないしね。でも、どうして?」
「……言うつもりは、なかったんだけど」
「うん」
「………」
どうも歯切れが悪い。首だけで弟を振り返ると、目が合うことはなかったが、視界の端で見られたことに気が付いたのか、反対側へと微かに顔を背けた。
「言いづらい事なら…そうだな、かいつまんでで良いよ」
「かいつまんで…?」
「まぁ、なんとなく想像できるし。要点だけで平気。今更俺もね、なにか傷つくとかさ、ないし。大丈夫だよ」
そっぽを向いた弟の頬に指の甲を添わせると、迷いのある顔がゆっくりと兄を振り返った。しばし無言のまま見つめ合うと、視線を反らした弟が天井へと顔を向け、意思を固めるかのようにギュット目を閉じ、眉間にシワをよせながら再び開いた。
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