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慰弦

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- 28章 -

-憎悪と情愛-

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『……ここ作った人達は有能だなぁ』

周辺に住宅地がない為か、風に優しく揺れる葉音や、緩やかに流れるお湯のせせらぎが、静かに耳を刺激し心を癒す。

重力から解き放たれた体が、人肌程の湯に揺らされ、まるで甘やかにあやされて居るかのようだ。

加えて、夜の闇を優しく照らす電球色のライトが、メラトニンの分泌を促し心地が良い。

生け垣と衝立に囲まれ、ある程度の閉鎖空間が作られたこの場所では、人目も気にせず休むことが出来る。

こんなんー

『寝るわぁー………』

大多数の人が仕事初めを向かえたとは言え、まだな人や、冬休み中の学生も居る。数限りある寝湯を利用するため、順番待ちしている人も居るだろう。

分かってはいるがー…


「……せい

「うん?」

「ちょっと300秒数えてみてくれる?」

「300……5分?」

「うん」

「………」

「…………」

「駄目?」

「分かった、5分たったら起こすねw」

「やだ、読まれてるw」

「分かるってそれくらいwwお休み!」

「お休みぃー」


なんだかんだちょくちょく覚醒したりはしたものの、やはり限界は限界で…ここは隣で控えめに笑う弟の優しさに全力に甘える事にし、月影は全力で眠りに意識を委ねる事にした。

そして、それは直ぐに聞こえてくる。

目を開けているのか閉じているのかも分からないほどの暗闇の中。どこかから聞こえる声に耳を澄ませた。

『あぁ、これは夢だ』

寝ているのに意識があるというのは、なんとも不思議な感覚だ。

そんなことはさておき、聞こえてくる声にもう1度意識を集中し、1歩足を踏み出してみる。

声を噛み殺し、鼻を啜る音と、無理やり息を整えるような呼吸音が、この暗闇の何処かからずっと聞こえてきている。


「…ねぇ、どこにいるの?」


返事はない。


「なんで、泣いてるの?」

「なにか、悲しいことでもあったの?」

「なにか、辛いことでもあった?」


返事はない。

相変わらず聞こえてくる声を頼りに足を進めてみるが、その声は近づく事もなく、遠退く事もしない。諦めてその場に座り込むと、闇の中意味はないかもしれないが、目を閉じ今1度意識を集中させ、声の聞こえる方向へ向かって話しかけ続けた。


「……そんなに隠れて泣いてちゃ、誰にも気づいて貰えないよ?」


何個目かも分からない問いに、一瞬、音が止む。反応があったことに安堵するが、再び聞こえはじめた悲しみの声に、無駄だと分かりながらも手を伸ばしてみる。

すると予想外に、その手の先に暖かいものが触れた。


「あぁ、ここに居たんだ」

「……でも」

「うん?」
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