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- 28章 -
-憎悪と情愛-
しおりを挟む結局なにも聞き出せないまま食事を終わらせ、浴場へと入ると仲良く並び、そしてー
「痒いところはありませんかぁー?」
「だいじょーぶでーす…きもちぃー…」
美容師ごっこを始めていた。
椅子に座り頭からシャワーをかぶった途端、秒で動きを止めた兄の顔をどうしたのかと覗き込むと、どうやら夢の中へ行ってしまったようだった。
『…そんな限界だったんだ。悪い事しちゃったな』
せめて髪だけでもと背後へ移動した安積は、シャンプーを手に取り髪へと撫で付けると、眠りは浅かったようで直ぐに目を覚ました。
「ありがとー、聖」
「いいのいいの!それより前から思ってたんだけど」
「うん?」
「なんでこんなに髪の毛伸ばしてるの?」
「えっ? なんでって…なんで、かぁー…」
素朴な疑問だが、少しばかり答えづらいその問いに小さく唸り声をもらす。
大切にしたい言葉があった。
ただそれだけだ。
「こんな長いと洗うのも乾かすのも、手入れだって大変じゃない?」
「まぁー…そうね。でも昔からずっと伸ばしてたから、今更短いのってなんか落ち着かなくて」
「そう言われれば家…に居た時から伸ばしてたしね」
「そうそう。アイデンティティーですw」
無意識に口から出た “ 家 ” の言葉に声が一瞬途切れる。誤魔化す為か無理やり言葉を続けるが、やらかしてしまったという気まずさを感じさせる空気が背後からひしひしと伝わってきた。
『別に気にしなくても良いのになぁ』
色々とあったけれど、あの家にあるのは嫌な思い出ばかりではなかった。気にせず話しをして欲しいと思うが、自分を取り巻く全てを話し聞かせた訳ではないし、それだけではない。
自分のこの心情は、長谷川にもワケわからんと一蹴された事がある。話した所で弟にきちんと伝わる気もせず、うまく話が反れた事に甘え、明確な問いを返すのは止める事にした。
「はい、終わったよ!!」
「ありがと!気持ち良かった!」
「どういたまっ!」
弟の手により丁寧に洗われた髪を一纏めにし、再び襲ってきた眠気にうつらうつらしながら、なんとか体を洗い終える頃には、弟も既に身を綺麗にし終えており、少しばかり短いのも楽で良いかも…と思いながら露天風呂へと向かった。
そして露天風呂を目の前にした2人は、仲良く同じような表情を浮かべていた。HPを見れば分かるだろう所を我慢して、今日の湯船はなんだろうと会話を膨らませ、楽しみにしていたその湯船は…
2人の期待を背負ったその湯船は…
普通の湯だった…
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