Pop Step

- 28章 -

-憎悪と情愛-

急な誘いに戸惑いを見せる弟の背後に回り、躊躇し少し重たい背中を、駐車場へと向かい押し出すと、共に歩みを進めていく。


「いやっ、でも聖ひじり疲れてるでしょ？家帰って休んだ方が良いんじゃ…」

「なに言ってるの！休む為に行くんだよっ！仕事頑張ったし、息抜きしたいし！ 聖せいは美味しいご飯お腹いっぱい食べられて、俺はゆっくり温泉浸かってリフレッシュ！ 一石二鳥でしょ！」

「そーゆぅもん？ 聖ひじりがそれで良いならそれで良いけど…」

「あっ…もしかして銭湯嫌いだった？ じゃぁ別のー」

「いやっ！ 好きっ！ 全然好きっ！」

「良かった！ じゃぁ早く行こっ！」


そうと決まれば、真っ先に頭に浮かぶのは、露天風呂の湯船だ。毎日ではないので運が良ければだけれど、ワイン風呂や柚風呂、林檎や牛乳、菖蒲湯などもやっている事もあるし、クリスマスには光るおもちゃを浮かべていた事もある。薄暗くなった露天風呂に浮かぶ色とりどりの光は、とても幻想的で綺麗だった。

バラエティーに富んだ湯船が売りの、久方ぶりに行く銭湯に期待を膨らませれば、自然と足取りも軽くなり笑みも浮かぶ。そんな兄の様子にようやく弟の躊躇も消え、湯船や食事所の話しに花を咲かせながら、競うようにして車へと乗り込んだ。

急遽だった為、道すがらのコンビニで  “ お揃い～w ” と笑いながら替えの下着を購入し、銭湯へと到着するとまず先に食事所へと直行する。

余程お腹が空いていたのだろう。セットではなく１人前の単品炒飯とラーメン、唐揚げとサラダを頼んだ弟に最早恐怖を覚える。

普段大食いと言うわけではないが、途轍もなくお腹を空かせている時などは、その見た目からは想像もつかない程の量を食べる。別に無理して食べている訳でもなく、ペロリと平らげるのだから、最初こそはかなり驚いたものだ。

そして自分と同じく太らない体質らしく、そこはかとなく嬉しさを感じたりもするけれど……それと同じくらい、それだけ食べても胃もたれしないのが羨ましい。


「…ねぇ、ホントにそれだけで良いの？」

「うん。今急にご飯食べたら、胃がビックリして大変な事になりそうだから」

「そっ、そっか？」


そんな事を考えながらしょんぼりと箸を進めていると、大量のご飯を食しながら心配そうに覗き込んできた弟に苦笑で答えた。

それもそうだろう。自分の目の前にあるのは豆腐サラダに塩ダレ胡瓜、気持ち的には一杯ひっかけたい所だけれど、あまりの疲労にお酒も受け付けなさそうで…お酒の変わりの健康的な味噌汁一杯のみなのだから。