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- 28章 -
-憎悪と情愛-
しおりを挟む「ホントはギュットして嫌がるくらいよしよししたい気持ちなんだけどねっ! 今本当、仕事立て込んでて…もう3日まともにお風呂入れてなくてっ!拭いたりとか、着替えはしてたんだけど…」
「あっ…そういう。良かった、嫌われたんじゃなくて。忙しい時に来ちゃってごめん」
「いやいや、全然そんなん気にしなくて良いよっ!丁度一段落ついた所だしっ!嫌いになんてなるわけもないしっ!」
「そう?」
「それで、今日はどうしたの?」
「あ…あぁー……えっと、ね。別にそんな大層な用事があったわけじゃなくて、ただ少し、顔が見たいなぁーって」
前から分かっていたことだけれど、弟は本当に嘘をつくのが下手だ。顔を見れば、声を聞けば、嘘をついている事など直ぐに分かる。
そしてー
「それだけだからっ!相当忙しかったみたいだし、今日はもーゆっくり休んでよっ!俺、帰るから」
気をつかって帰ると言い出すだろう事も、直ぐに分かる。なにかを我慢するかのように斜めにかけた鞄の紐をギュッと掴み、ぎこちない笑顔を作った弟の頬を両手で挟むとグッと顔を近づけた。
「えっ、えと、なに? どうしたの?」
「ならもっと見てってよ」
「なっ、なにを??」
戸惑いに目を反らすことも出来ずに兄の目を見つめ返して居ると、真剣そうな顔をふわりと和らげた月影は、おでこをそっとくっつけた。
「お兄ちゃんの顔」
「……なんか、改まってそぅ言われると恥ずかしいんだけど」
「どう? かっこいい?」
「……疲れてる顔してるw」
「…それは、ごめん」
致し方ない事だし事実なのだけれど、こうもド直球で言われると若干切なくなる。なるべく疲れは見せないようにしたいのだが、いくら態度で頑張っても、弟に会えて心が癒されても、見た目は誤魔化しようがない。
今休息が必要なのは確かだ…
「謝ることないよ!頑張って仕事した証拠でしょ!かっこいいね!!」
「~っ、風のっ、谷の…姫かっ!!好きっ!」
「姫は止めてほしぃなぁw」
ネタのようだともとらえられるけれど、その声が纏う邪心なき真っ直ぐな響きと、周辺を漂う一点の曇りもない空気は、その言葉が本心で言ってくれたのだと言うことを物語っている。紆余曲折あったけれど、こんな良い子に育ててくれた弟の両親には感謝するしかない。
弟を見ていると、自分の選択は間違いじゃなかっのだと、肯定されたように思える。
それが、凄く嬉しい。
「そうだ、聖!お腹すいてない??」
「あー…まぁ。その、朝からなにも食べてなくて…」
「えぇっ!? ちゃんと食べなきゃ駄目じゃない!」
「……それ、聖が言う?」
「いいの俺は! じゃぁさ、銭湯行こうよ銭湯っ!スーパー銭湯っ!!」
「えっ、銭湯? 」
「そう! 銭湯のご飯って結構美味しいよっ!」
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