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慰弦

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- 28章 -

-憎悪と情愛-

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携帯を握りしめ駐車場へと向かうが、そこにも姿はない。どこへ向かったのだろうか?もし自宅へ帰るのなら、駅の方へと向かったはずだ。目撃したというのはつい先程だし、まだ近くに居るかもしれないと、もう一度コールを鳴らしながら其方へと足を向けた。

再び無機質な案内音声が流れ、もう一度かけ直す。

弟にしては珍しく、連絡もせずわざわざ職場まで来た上、なにも言わずに帰っていくなんて。迷いのある心情が見え隠れしているようで、気づけなかった申し訳なさに焦りが増していく。

『なにかあった?…それともなにかしちゃったかなぁ、俺』

3度目の連絡も、もう間もなく案内音声に変わるだろうと諦めかけた所で、不意にコールが途切れ、瞬刻の間の後小さな声が耳に届いた。


せいっ!良かった出たっ!」

ひじり…」

「ごめんね、連絡気がつかなくて」

「うぅん、仕事中かもって思ってたし…全然大丈夫」

「ホントごめんっ…今どこに居るの?」

「…えっと。もうすぐ、家」

「嘘言わないっ! ついさっき職場まで来てたんでしょ!」


通話が繋がった事にホッとしつつも、微かなざわつきに足は止めず電話口へと耳を傾ける。嘘をついたのは、仕事の邪魔をしないようにという気づかいからなのか、はたまた別の何かなのか…


「それで、今どこ?」

「えっと…駅に向かってるところ」

「良かった、まだ電車乗ってなくて!直ぐに行くからちょっと待っーあっ!」


勿論、乗ってしまっていたとしても会いにいくつもりではあったけれど、それよりも早く合流出来るのならば、それ以上に喜ばしいことはない。1秒でも早くと足を早めようとした丁度その時、数十mほど離れた眼前の街灯の下にその姿をとらえ、発見の声をもらした。

思いもよらず出てしまった大きな声に、驚いた様に耳から携帯を離し、辺りを見渡すとパッと振り向いた弟も、どうやら自分の存在に気がついたらしい。

通話を切り携帯をポケットにしまいながら、感動の再開よろしく両手を広げ向かってくる弟を、月影は受け止める為に両手を広げた。

のだが、すんでで思い出した自身の現状に広げた両手を前へと突きだし、その両手は弟の両肩をとらえた。まるで拒まれた様な状況になんとも言えない悲しそうな顔をし、広げた弟の両手は行き場なく宙にういている。


「ちっ、違うよっ!?」

「………」


悲しませるつもりはなかったのだけれど、さすがに今抱き締めるのは抵抗があるし、それ以上に申し訳もない…
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