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- 28章 -
-憎悪と情愛-
しおりを挟むそして数コールで聞こえてきた暖かな声に、一気に気が緩み、溢れそうになる涙を堪えると、母に言えなかった言葉が次々と飛び出した。
「…んでそんな事言われなきゃならないんだよっ!」
『え?なに急に?どした?』
「俺達のせいにしてんじゃねぇっ……!」
『いや待て、落ち着けって』
「そんな事っ!望んでなんかねぇよっ!」
『……そうか』
「人のせいにして正当化してんじゃねぇっ!」
『それはムカつくな。大丈夫か?』
「大丈夫じゃないっ!!」
『そりゃ、大変だ』
その声色から、突然の事に戸惑って居るのが分かる。本当はこんな愚痴を言うつもりはなかった。もっと冷静に話を聞いてもらいたかった。
でも、聞こえてきた声が、あまりにも安心感を与えてくるものだから、気持ちが押さえきれなくなってしまった。
「どんな理由があっても駄目なもんは駄目だろっ!」
『そりゃそうだな』
「どーして、聖ばっかり辛い目にあわなきゃならないんだよっ!」
『聖さん?聖がどうかしたか?』
「誰と仲良くするかは俺の自由だじ、俺が決めるもんだろっ!?なんでとやかく言われなきゃならないんだよっ!!」
『それはそうだな。良いんじゃないか?それで』
「ってか、聖のなにを知ってるってんだよっ!自分勝手に追い出したくせにっ!」
『…それは知らねぇけど、取りあえず一旦落ち着けよ。ちゃんと聞くから』
困らせてるのは分かるのだけれど、一方的に喋り続ける自分の言葉だって流さず冷静にきちんと受け止めてくれる。そんな全てを受け止めるような優しさに、苛立ちと好きが混ざってなんだか良く分からなくなっていく。
「人の大事なもん勝手に捨ててんじゃねぇっ!!」
『…そーだな、それは酷いな』
「思い出ごと全部捨てやがってっ!!」
『それは、辛いよなぁ』
「睦月っ!!」
『ん?』
「……ごめん、好き」
『なんだよ急にっw 良いよ、別に。謝らないでも』
スピーカーから微かに聞こえる息づかいだけで、市ノ瀬が今どんな表情をしているのか目に浮かんでくる。
側にいたらきっと、呆れたような優しい笑みを称えながら、優しい手付きで頭を撫で、そして抱き締めてくれていただろう。
…少し、惜しいことをした。
『で? 一体なにがあってそんなイラついてるんだよ』
「…んんー……いや、やっぱまだいいや」
『いいの?』
「…うん。ちょっとエキサイトしてたわ…」
『そりゃ聞いてりゃ分かるw』
「なんかさ、めちゃイラついてたんだけど…」
『うん?』
「好きっ!って思ったら薄らいだ」
『なんだそれっww まぁよく分からんが役に立てたなら良かったわ』
吐き出したから楽になった。
それだけじゃない。
市ノ瀬だから、楽になれた。
いつもそうだ。
理由が分からないことでも無理に聞き出そうとはせず、そのままを受け止め、分からないなりの答えを真剣に考えてくれる。
その答えは時折手厳しく、問いかけてくるような事も多いけれど、選択肢が広がる中で自分なりの答えに行き着くまで熟考することが出来る上、辛い時は側に居てくれる。
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