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慰弦

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- 28章 -

-憎悪と情愛-

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一階から自分を呼ぶ声が聞こえた気がする。
けれど、この場所から動くことが出来ない。

目の当たりにした光景は、まるで全てをなかった事にしたい。そんな両親の思いが現れているようにしか思えなくて…


「なにしてるの? そんなところで」

「…………なん、で」


返事が出来なかったせいで様子を見に来たのだろう。いつの間にかドアの前に立っていた母が、冷やかな声で問いかけてくる。

動くことも出来ず部屋を眺めたまま、乾いてへばりつく喉をなんとか抉じ開け一言絞り出すが、まるでこの部屋を拒むように、母は1歩も踏み込む事なく会話を続けた。


「どうかした?」

「…ここ」

「…物置がどうかしたの?と言っても、特に置く物もなかったし、なにもないわよ?」


確かに、物心ついた時には既に物置だと聞かされていた。大事なものがしまってあるからといつも鍵がかけられていて、なんだか近寄りづらかったのもあり、立ち入ることはしなかった。

父から異母兄あにの事を聞き、この部屋の事を思い出しはしたものの、聞く勇気も、入る勇気もないまま引っ越しをしてしまった為、最後まで部屋の状況を確認する事はないままで…

でも、まさか。

こんな状態になっていたなんて…


「…もっと、前」

「前?」

「物置じゃない。ひじりの部屋、だったでしょ」

「…あぁ、あのの子。 覚えてたの?」

「親戚……この部屋にあったやつ、どこにやったの?」

「どこにって、とっくに処分したわよ。 あの子は少しの間預かってただけだし、出ていく時に必要な物は全部持っていったから。いらない物を取っておく必要なんてないでしょ?だから、倉庫にー」

「そうじゃないだろっ!」


前から用意していたかのようにスラスラと話す母に、その言葉の非道さに、いまだに兄を親戚と位置付ける事実に、頭が真っ赤に染まり思わず声をあらげた。


「まだ、そんなこと言ってんのかよっ!」

「どうしたの急に…そんなことって?」

「親戚なんかじゃないだろ…。ひじりは俺たちの家族… 俺の、兄さんでしょ」

「…どうして、その事」

「父さんからなにも聞いてないの?」


授業で戸籍謄本を使った事、そこで父に聞いた事、静創学園へ行った理由。

そこでたまたま月影に会った事を矢継ぎ早に説明すると、みるみるうちに母の顔に苛立ちと焦りが浮かび上がる。


「やっぱり戸籍になんて残すんじゃなかったっ!」

「…は? なに、言ってんの?」

「……またなの?」

「なにが?」

「またあの子がっ、私の幸せを壊すのっ!?」


半ば叫ぶように吐き捨て部屋へと足を踏み入れた母に、乱暴に腕を掴まれ外へと引っ張りだされる。閉めたドアを背に立ち塞がる母の顔は、青く染まっている。
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