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- 28章 -
-憎悪と情愛-
しおりを挟むなにがあったかなぁと1人言を呟きながら、バタバタと台所へ向かう母を見送り、自室へと足を向けた安積は、階段途中で立ち止まり、大きく溜め息をついた。
『…良かった』
いつも通りにすれば良いと思っていても、やはり、いつも通り振る舞えるか不安があった。
実家を出て静創学園へ行って、月影に会って、新たに知った事や思い出した事が沢山ありすぎた。
知らなかった母の1面を知り、ブレる像が態度を惑わせた。
けれど会ってしまえば、やはり自分の知る母そのもので…
それでも母がしたことが消えたわけではなく、事実としてあるのだ。
それはー
再び歩みを進め、階段を上がり自室のドアの前に立つと、後ろを振り返る。そこには物置として使われている、以前は月影が使用していた部屋がー
「あれ…?」
目にした、自分が住んでた頃とは違う光景に、思わず声がもれる。そこには本棚が置かれていたはずで、出入りは外階段からしか出来なかったはずだ。
たがその本棚はどこかに消え失せ、変わりにドアが1つ姿を表している。そんな物は今まで1度も見たことがなかった。
「…作った、のかな…わざわざ? それとも、もしかして」
元々あったもので、そこから家の中に入れないように本棚が置かれていただけだったのだとしたら…
その予想に、そこから予測される母や異母兄、父の心情が、その苦痛が、自分の知らないところで築かれていた関係性に、心拍数が上がっていく。どんどんと息苦しさが襲い、落ち着ける為にぱっと目を反らすと自室へと逃げるように入り込んだ。
大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出すと、そっと顔を上げる。目の前に広がっていたのは、自分が家を出る直前と何ら変わりない、まるで昨日まで生活していたかのような自室だった。
自分が出て行ってからも、きっとこまめに掃除をしてくれていたのだろう。何もかもがあの日のまま残っている。
息苦しさに窓を開け放つと、幾分か呼吸が楽になったような気がした。今のうちにとキャリーを広げ黙々と必要なものをつめながら、それでも頭に浮かぶのは自分以外の家族のことだ。
異母兄のおかげで母を嫌いにならずにすんでいた。
異母兄が嘘をついていると思って居るわけではないが、どこか現実味が薄く、信じたくない気持ちもあって…
しかし目の前で異母兄の言葉を裏付けるような鱗片を見てしまうと、まさか母が…という疑いは少しずつ確信へと変わり、憎悪にも似た気持ちが顔を覗かせる。
なにも考えられず手当たり次第に必要そうなものを詰め込み終わると、暫くその場に座り込み、意を決したように立ち上がった。
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