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- 28章 -
-憎悪と情愛-
しおりを挟む思い立ったが吉日。安積は懐かしい風景を見回しつつ、荷物を持ち帰る為、空のキャリーバッグを引きながら実家への道を歩く。
午前中には勝手に目覚めるだろうとアラームをかけず寝たのが失敗だった。思ったよりも疲れていたらしく、目が覚めたのは昼過ぎで、あまり遅くなってもとなにもお腹に入れずに家を出たせいか、先程から腹の虫が鳴っている。
『まぁ…なにかしらあるよね。実家ついたらなんかもらおー…』
それでも久々の道のりを堪能するようにゆっくりと進み、実家までたどり着くとキーケースを取り出した。手の中のキーケースに市ノ瀬の姿が脳裏に浮かび、自然と緩む顔を慌てて引き締めると、鍵穴へと鍵をー…刺す直前で手を止める。
『そういえば、今日帰るって連絡してないや…』
いくら実家とはいえ、連絡もなしに突然誰かが家の中に入ってきたら驚かせてしまうかもしれない。チャイムを鳴らすべきか……
『…ま、いっか。自分の家でもあるんだし』
そんな考えは秒で吹き飛ばし、鍵を開け玄関へと入ると、ただいまと言うよりも前に、久々に見る顔がひょっこりとリビングから現れた。
「…びっ、くりしたぁっ!?えっ?あれっ!?今日帰ってくるって言ってたっけっ!?」
「ごめん忘れてたっwただいま、母さん」
「おかえりっ!!」
靴を脱ぐ息子に小走りで近づいた母、裕子は、息子が家に足を踏み入れた瞬間、待ちきれないといった様子でぎゅっと抱き締めた。
突然帰って来て驚きはしたものの、それでも元気そうな姿を見ればホッとし、抱き締めずには居られなかった。
「ちょこちょこ連絡はくれてたけど、全っ然帰って来ないから心配してたんだよっ!?良かったっ、元気そうでっ!!」
「ごめんごめん、母さんも元気そうで良かったよ」
『もしかして…俺のスキンシップの多さって、母さん譲り?』
同じ家で生活していた時には気が付かなかったが、1度離れたせいで客観視出来るようになったのか、自分の行動が母に似ている部分がある事に初めて気が付いた。
『……これは、あれだな。人を選ばないといけないやつだな…』
自身の行動を密かに反省しつつも、気恥ずかしさから、自分にしがみつく母の背を2度叩いた安積は、肩を押して体を引き剥がす。
母ってこんなに小さかったっけ?
なんて思えたら最高なんだけれど。俺の成長期って…と若干悲しくなりながら、リビングへ向かう母に続く安積だったが、中に入る前に足を止めた。
「それで? 急に帰ってきてなにかあったの?」
「あー…いや、ただ取りに来たい荷物があって。あと、久々に顔もみたいなって。冬休みだし」
「顔見たいって…息子が良い子過ぎるっ!」
「そんな大袈裟な」
「っていうか、連絡くらいちょうだいよ!分かってればちゃんと聖の好きなの買っておいたのに!!夕飯食べてくでしょっ!?」
「うん。実は今日なんも食べてなくてさ。助かるよ。家にあるやつで大丈夫だから」
「食べてないっ!?駄目じゃないちゃんと食べなきゃっ!育ち盛りなのにっ!もーっ!」
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