992 / 1,142
- 27章 -
- 謹賀新年-
しおりを挟むそう言い残し寝室へと消え、戻ってきた安積の手に持たれていたのは来客用のタオルケットで、お礼と共に受け取った鈴橋は、倒れ込むように横になりと間髪入れず眼を瞑った。
『…頑張ったね、がっくん。お疲れさま』
糸が切れた様に動きを止め、静かに寝息を立て始めた鈴橋に、植野は心の中で労いをかけながら、中途半端にかけられたタオルケットを肩まであげた。そんな鈴橋に配慮しながら、抑えた声で会話が交わされていく。
「そーいえばさぁー」
「んー?」
「皆って進路どーすんの?」
脈絡のない問いに疑問の表情を浮かべる3人だったが、確かにそろそろそんな話題が出てきても良い頃だ。特別隠すべき事でもないしと、既に鈴橋と共に進路を決めた植野が口火を切った。
「俺は進学予定だよー。あとがっくんも」
「まじかぁ…専門?」
「がっくんは保育士で、俺は普通の大学行って自動車整備士の資格とれる所でバイトしよーかなって」
「自動車整備士!?まじかっ!格好いいっー…えっ、あっきー達は?」
「俺も進学。どこかは決めてねぇけど」
「やっぱモデル関係?」
「そう」
「僕は医大目指そうかと」
「医大っ!? 」
医大は偏差値も高く入るだけでも困難だ。何年も続く困難な道を走り抜け、無事資格を取り仕事に就いたとしても、人の命を預かる責任重大な仕事で失敗は決して許されない。生死を間近で感じ、それが自分の手にかかっているというプレッシャーや重圧は予想を超えるものだろう。
救った命に感謝もされれば、救えなかった命に憎しみをぶつけられる事もあるだろう。
そんな仕事を目指すとさらりと言ってのけるなんて…静まり返った3人を他所に、当の本人は呑気な笑い声をあげた。
「なので勉強頑張らないとですねぇ。取りあえずは学君目指しますw」
「…取りあえずのレベル高くない??」
「こいつ、各教科も総合も常にトップ3入ってんぞ?しかも圧倒的に主席率たけぇし」
「まぁ、それくらいじゃないと医大は難しいですし」
別に成績が悪いわけではないが、それでも医大の確実合格を狙うのなら心許ない。黙々と勉強を続けるよりも、競う相手が、目標が居た方が現実味を持って頑張れる気がする。
とはいえ、いきなり鈴橋を目標にするのは無謀かもー
「……じゃぁ、俺も頑張らないといけませんね」
「Σ 起きてたのっがっくんっ!?」
「……まぁ」
「だってさ、明」
「目標はどんどん遠くなるねww」
「…なんでだよ。高くて損はないだろ」
「………えぇ、勿論。がんばり、ます…よ」
一緒に頑張りましょうという鈴橋に、元気のない笑みを返す班乃を眺めつつ、安積はひっそりと溜め息をつく。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

私の事を調べないで!
さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と
桜華の白龍としての姿をもつ
咲夜 バレないように過ごすが
転校生が来てから騒がしくなり
みんなが私の事を調べだして…
表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓
https://picrew.me/image_maker/625951

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる