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慰弦

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- 27章 -

- 謹賀新年-

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そう言い残し寝室へと消え、戻ってきた安積の手に持たれていたのは来客用のタオルケットで、お礼と共に受け取った鈴橋は、倒れ込むように横になりと間髪入れず眼を瞑った。

『…頑張ったね、がっくん。お疲れさま』

糸が切れた様に動きを止め、静かに寝息を立て始めた鈴橋に、植野は心の中で労いをかけながら、中途半端にかけられたタオルケットを肩まであげた。そんな鈴橋に配慮しながら、抑えた声で会話が交わされていく。


「そーいえばさぁー」

「んー?」

「皆って進路どーすんの?」


脈絡のない問いに疑問の表情を浮かべる3人だったが、確かにそろそろそんな話題が出てきても良い頃だ。特別隠すべき事でもないしと、既に鈴橋と共に進路を決めた植野が口火を切った。


「俺は進学予定だよー。あとがっくんも」

「まじかぁ…専門?」

「がっくんは保育士で、俺は普通の大学行って自動車整備士の資格とれる所でバイトしよーかなって」

「自動車整備士!?まじかっ!格好いいっー…えっ、あっきー達は?」

「俺も進学。どこかは決めてねぇけど」

「やっぱモデル関係?」

「そう」

「僕は医大目指そうかと」

「医大っ!? 」


医大は偏差値も高く入るだけでも困難だ。何年も続く困難な道を走り抜け、無事資格を取り仕事に就いたとしても、人の命を預かる責任重大な仕事で失敗は決して許されない。生死を間近で感じ、それが自分の手にかかっているというプレッシャーや重圧は予想を超えるものだろう。

救った命に感謝もされれば、救えなかった命に憎しみをぶつけられる事もあるだろう。

そんな仕事を目指すとさらりと言ってのけるなんて…静まり返った3人を他所に、当の本人は呑気な笑い声をあげた。


「なので勉強頑張らないとですねぇ。取りあえずは学君目指しますw」

「…取りあえずのレベル高くない??」

「こいつ、各教科も総合も常にトップ3入ってんぞ?しかも圧倒的に主席率たけぇし」

「まぁ、それくらいじゃないと医大は難しいですし」


別に成績が悪いわけではないが、それでも医大の確実合格を狙うのなら心許ない。黙々と勉強を続けるよりも、競う相手が、目標が居た方が現実味を持って頑張れる気がする。

とはいえ、いきなり鈴橋を目標にするのは無謀かもー


「……じゃぁ、俺も頑張らないといけませんね」

「Σ 起きてたのっがっくんっ!?」

「……まぁ」

「だってさ、明」

「目標はどんどん遠くなるねww」

「…なんでだよ。高くて損はないだろ」

「………えぇ、勿論。がんばり、ます…よ」


一緒に頑張りましょうという鈴橋に、元気のない笑みを返す班乃を眺めつつ、安積はひっそりと溜め息をつく。
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