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- 27章 -
- 謹賀新年-
しおりを挟む安積が台所に戻ると、再び聞こえてくる楽しそうな演劇部組の会話、そして隣でホット柚子を飲みながらうとうとする恋人。そんなホッとする空間に、空腹よりも眠気が勝るのは時間の問題だった。
耳に届く声がどんどん遠退いて行きー…
『やば……ちょっと飛んでー……』
ほんの一瞬。感覚的にはほんの一瞬だったのだが、目を覚ました植野の前には先程頼んだお餅の数々がズラリと並べられ、全ての準備を終えたらしい安積が席へとついた所だった。
「あー…ごめん、ちょっと落ちてた」
「大丈夫大丈夫っ!おはよう綾っ!丁度準備終わった所だけど、食べられそう?」
「うん、大丈夫ー。むしろペコペコぉー」
「学君はちょっと大丈夫じゃなさそうですけどね」
「がっくん?」
『大丈夫じゃないっ、って…』
ぼんやりした頭のままパチパチと瞬きを繰り返す植野に、微かにニヤケた顔をした市ノ瀬は、植野の胸元から少し横にズレた辺りを指示した。
その指先を追っていくと、誰かの足が視界に入る。緩慢な動きで視線をあげ、漸く今の状態を理解した植野はガバッと体を起こした。
「ごっ、ごめっ、めっちゃ寄りかかってたっ!?」
「寝てる人間って異様に重いよな…肩凝った」
「後でマッサージするから許してっ!」
「許すもなにも別に怒ってない」
「イチャついてねぇで飯食おうぜ?固くなるし」
「いちゃっっ」
「イチャついてないけど同意。腹減った」
「がっくんっ!?」
「良き糧をっ!!」
「良い糧をw」
焦る植野をスルーし、パンッという音を響かせ両手を合わせた安積に続き、各々が手を合わせ箸を伸ばした。
華麗にスルーする安積や、涼しい顔でサラリと返す鈴橋に若干置いていかれる植野だったが、ここで大袈裟に反応してしまえば今後も面白がってからかってくるに違いないと、グッと言葉を飲み込んでテーブルへと視線を移す。
そこには先程自身らが提案した物のみならず、越前煮やなます、たたきゴボウに栗きんとん、伊達巻や黒豆、蒲鉾といった正月らしい料理が所狭しと並べられている。
これがお皿にではなく重箱に入ってれば、もう立派なお節料理と言えるラインナップだ。
「凄っ!予想以上に正月っぽいっ! 本当に頂いちゃって良いのこれっ!?」
「勿論っ!皆で食べた方が楽しいじゃん!」
「この煮物作ったのは安積か?」
「ぅうん、それはー……そう!だいたいそんな感じっ!」
「だいたいってww」
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