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- 27章 -
- 謹賀新年-
しおりを挟むそして他愛ない会話を交わしながら再び歩みを進め、班乃を見つける迄にそんなに時間はかからなかった。
声をかける事が躊躇われるような光景を目にし足を止め鈴橋と顔を見合わせると、ゆっくりと、なるべく驚かせないように静かに足を踏み出した。
その驚かせないように、は、班乃への配慮ではない。
砂利を踏む足音が近くで止まった事に気がつき、2人を見上げた班乃の顔には、どこか気恥ずかしげな色が浮かんでいた。
「えっと、さっきぶりです」
「ぅ、うん、さっきぶりっw」
「あの、会長…これは、一体どういう…?」
「あー…これは…」
目の前の光景に問わずに居られなかった鈴橋が、班乃へと状況説明を求めるが、答えが来るよりも先にカシャカシャっと、シャッター音が聞こえ3人同時にその音の方へと視線を向ける。
その視線の先にはスマホをこちらに向け、仲良く画面を覗き込みながら堪え笑いをする安積と市ノ瀬の姿があった。
「ちょっとちょっと、なにしてんのあっきーww」
「なんか可愛らしい事になってんなww」
「…好きでこうなったわけではないのですけどね」
市ノ瀬の登場に “ 1匹増えた ” と内心に浮かんだ植野だったが、いくら先程いじられたからとは言えそんな事言う程無神経ではない。
「なになに、魔法でも使ったの?」
「…いえ、どちらかと言えば薬物ですかね」
「媚薬っ!?」
「媚薬っwww」
植野達同様、彼等を、班乃に集まる紛うことなき〝猫達〟を驚かせないよう安積達が静かに近づくと、一瞬身構えるような素振りを見せたが、危害を与えないと分かると、再び班乃に寄り添い腰を下ろすと猫団子を作った。
「ほんと、猫ばっかり集まってしまって…可愛い子なら大歓迎なんですけど」
「…なんでこっち見るのよ」
『人の気づかいをなんだと…』
市ノ瀬をチラリと見た後、流れるように植野へと視線を向けた班乃が、含みを持たせた言い方で吐き捨てた。
鈴橋と2人きりの時間を過ごせたのは、勿論班乃の気づかいのおかげだ。でもだからと言って、班乃を、親友をいつまでも1人にしておいて良いはずがない。
それに安積の事だって完全には吹っ切れていないだろうし、1人にしておきたくもない。
好意はありがたく受け取りつつ、それでも班乃からの連絡を待つことなく戻ってきたと言うのに、こんな早々に弄られるなんて…
若干の理不尽さに悲しくはあるが、遠回しに
“ もう気をつかわなくて大丈夫 ”
と伝えてきていると取れなくもない。
それなら、それはそれで……
『……いや、違う。違うわこれ。完全に嫌みだわ』
膝の上の猫を撫でながら、声を噛み殺し楽しそうに笑う班乃に、なんだか涙がこぼれそうになる…
『良いですけどねぇー別にぃー?貴方が楽しければそれはそれでぇー…っ(*`エ´)』
「ってか知らなかったなっwあっきーって猫にもモテるんだねぇー」
そんな2人のやり取りなど耳にも入らぬ程、木漏れ日に光る柔らかそうな体毛と、気持ち良さそうに目をつぶる猫の姿に目を輝かせた安積は、密かにうずうずしていた右手を、班乃の膝の上で寛ぐ猫様の鼻先にそっと伸ばした。
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