970 / 1,142
- 27章 -
- 謹賀新年-
しおりを挟む目を合わせ2人揃って首を傾げるが、考えたって分からないものは考えても仕方がない。来る途中で渡った浮き石を渡らず、書道美術館の前をそのまま真っ直ぐ進んだ辺りに居るとの事なので、言われたままにそっちの道を進んでいくが……
「綾雪? 行かないのか?会長の所」
「行くよー! でもちょっとだけ寄り道っ!」
にっこりと笑い鈴橋の手を取ると階段を登り、2人が行き着いたのは先程皆で来た水琴窟前だった。
「意外だな。また来るくらいお前も気に入ってたのか」
「まぁ、それなりにね!がっくんも好きでしょ!」
「…ありがとう」
「どういたしましてっ!」
癒されると絶賛していたし、今しがたの一件で精神的にも疲弊したのではないかと思い、立ち寄ってみた。弱々しくお礼を口にし、吸い寄せられる様に音を聞くため竹筒に向かっていく鈴橋に、来て良かったと笑みがこぼれた。
そしてー
来たのはそれだけが目的じゃない。
1度周辺を見渡し誰も居ないことを確認した植野は、目を閉じ音に聞き入る鈴橋の額に、短く口づけを落とした。
「……な、にすんだよ」
「いやー…ね、実はずっと我慢してて。大丈夫、誰も居ないの確認したし。…嫌だった?」
「…別に、嫌じゃない」
「そ? 良かった」
微かに頬を染め、確認したと聞いても心配だったのかきょろきょろと辺りを見渡した鈴橋が、大きな溜め息と共に突如その場にしゃがみ込んだ。
「えっ、ちょっとっ、どうしたの?大丈夫っ!?もしかして具合悪いっ!?」
体力的にも精神的にも疲れていることも予想は出来ていたのだが、実は思っていたよりも疲労を感じていたのかも知れない。
しゃがみ込んで顔を上げない鈴橋の肩に手を置きその顔を覗き込もうとした瞬間ー
ぱっと顔を上げた鈴橋と至近距離で目があい、言葉を交わす間もなく、その距離がぐっと近づき息が止まった。
「…………」
「俺だって同じだ」
「……えっと」
「せっかく我慢してたのに」
「ごっ、ごめん…」
「別に。さて、いい加減行くか。会長の所」
「…はい」
不意打ちに動揺し、落ち着きなく心臓を鳴らす植野とは違い、何事もなかったかのように立ち上がり、平然と先へと歩き始める後ろ姿を呆然と眺める他なく、植野はその場に立ち竦む。
そしてそんな植野に気がつき振り向いた鈴橋のその顔には、どこか気力が戻ったような爽快さも垣間見えた。
不意討ちをしても、それを越える不意討ちを返される。もしかしたら自分が彼に勝てる日は来ないかも知れない。
しかしそれでも、鈴橋の元気が戻ったのならそんな事は些細な問題でしかないだろう。
感触の残る唇を指でひと撫でし、ざわつく心肺を深呼吸で落ち着かせると、置いていかれない様に鈴橋の元へと駆け寄った。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
私の事を調べないで!
さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と
桜華の白龍としての姿をもつ
咲夜 バレないように過ごすが
転校生が来てから騒がしくなり
みんなが私の事を調べだして…
表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓
https://picrew.me/image_maker/625951
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
僕の番
結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが――
※他サイトにも掲載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる