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- 27章 -
- 謹賀新年-
しおりを挟む怖いお兄さんの突然の笑顔に目を丸くする子供の様子に、そりゃこんな怖い思いをさせられればな、と可哀想に思うと同時に、申し訳ないがなんだか微笑ましさを感じてしまう。
1人のほほんとしている植野を余所目に、鈴橋は固まってしまった子供をぎゅっと抱き締め安心させるよう2、3背中を叩くと、再び体を離し今度は真剣な表情で両膝に手を置き静かに頭を下げた。
「俺も、怖い思いさせてごめんなさい。許してくれるか?」
「………え?」
「…駄目、だろか?」
「大人の人もごめんなさいするの?」
「………」
大人でも子供でもない、けれど彼からしたら大人の鈴橋に謝られた事が、心底不思議だというように首をかしげる様子に絶句しかない。
謝る事に
大人も子供も関係ない。
上下関係なんて関係ない。
どんな立ち位置だろうと
どんな相手だろうと関係ない。
そんな当たり前の事を教えてもらえずに居たのか。
そんな当たり前の事を
教えて上げる事が出来ない人しか居なかったのか。
「情けないな」
「え?」
「いや、なんでもない」
教えられない大人しか居ない事実が情けなく、そのせいでそんな当たり前の事を知らずに彼が大きくなっていってしまうという事が不憫で申し訳なく、どちらにしても嘆かわしい事でしかない。
自分の子供でもなければ、園の子供でもない。
偉そうな事を言える立場ではないかもしれない。
それでも、これからも続く彼の長い人生の中で、たまたますれ違った誰かが言っていたという微かな記憶でも良い。少しだけでも、この事が彼の記憶に残って欲しいと、静かに口を開いた。
「悪い事したら謝る。それは、大人とか子供とか関係ない。人として当たり前の事だ」
「そうなの?」
「そう。でもそれはとても難しい事で、大人になればなる程出来なくなっていく事もある。それでも俺は、君にそうならないで欲しいと思う」
「…分かったっ!ずっとちゃんとごめんなさい出来るようにするっ!」
「ありがとう」
「 じゃぁ、仲直りっ!!」
「………仲直り?」
目の前にズイッと差し出された子供の手に目を丸くした鈴橋は、その手を凝視しながら思考停止したように動きを止めた。
いや、思考停止しているわけではない。むしろその逆で、今鈴橋の頭の中は凄まじく動きを見せているはずだ。
差し出されたその手の意味を。
鈴橋の考える時のこの独特の間は、慣れている人にとっては平気でも、そうでない人には不安にさせる時間でしかない。
案の定、子供の顔には陰りが見え始めている。
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