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- 27章 -
- 謹賀新年-
しおりを挟むうまい言葉が見つからないのか口元に手をやり小さく唸った安積は、不安げな自信のない声で説明を続ける。
「そう。怪しまれないで、2人になれるチャンス。俺としてはさ、お前のトイレに便乗…というか、トイレのついでに一緒に居られたって感じだったから…なんか、なんていうか…」
「…なんだよ?」
「トイレがついでで嬉しい、みたいな?あ、トイレは口実って言ってたっけ?ややこしっww」
どうやら言いたい事は無事言葉に出来たようで、不安げな表情から一変、照れているのを誤魔化すようにニカッと笑い、極めて明るく言い放つと足を早めた。
思惑が通じたと思ったあの時、目が合ったのは…
「とにかく、チャンス作ってくれてありがとう!口実って事には気がつかなくてごめんだけどさ、でも結局同じこと考えてたって事じゃん? 凄いよなっ!」
「…そーだな」
安積の言う通り、やり方は違えど互いに
“ 2人だけの時間が欲しい ”
と願っていたからでー
「なんか、良いなっ!良いね、こーゆーのっ!以心伝心!みたいな ? 嬉しぃ!」
『これは、あれだな……』
落ち着かない気持ちを落ち着かせる為か、繋いだ手をにぎにぎと握り締め浮かべる人懐っこい笑顔からは、“ 好き ” が全力で滲み出てきているようで…
『ちょっと、来るな…』
下半身に。
今直ぐにでも
全力で腕の中に閉じ込めてしまいたい。
その顔を羞恥で染めて
唇に指を這わせ
そしてー…
「せっかくだしトイレまで行っちゃおっか!」
「いや、いい。いいいい、大丈夫」
「…そう、だよな。あまり遅くなって待たせてもあれだし」
「いや、行こう」
「どっちだよw」
直前まで脳裏に浮かんで居た邪念と、トイレへ誘われたタイミングが相まり、トイレ本来の目的を見誤ってしまった。
安積がそんな目的でトイレへと誘うわけがない。
きっとこの場合はー
口実を使って2人で居ようとしてくれてたのだろう。
「トイレって言って出て来たんだ。嘘にはならないし明達は待たせとこう。もう少し、2人でのんびりしてたいし」
「……うんっ!」
返答迄の絶妙な間は他の人達を待たせる事への罪悪感なのだろうけれど、それでも安積が自分と居ることを選んでくれた事が嬉しくてしょうがない。
市ノ瀬とて植野と鈴橋の居るあの場に班乃を待たせてしまっている事に申し訳なさを感じないわけではないが、あっちはあっちでどうとでも上手くやるだろう。
もう暫しの間だけだからと心中謝罪を浮かべつつ、2人だけの時間を楽しむ為に再びトイレのある公園出口へと足を向けると、高台の上に聳え立つ真っ赤な二重の塔が威風堂々と姿を現した。
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