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- 27章 -
- 謹賀新年-
しおりを挟む「トイレ遠いなぁー」
真剣な表情で公式HPを見る安積と並び、市ノ瀬はのんびりとした歩調で歩みを進めていた。
「公園内にもあった気がしたんだけど…気のせいだったみたい。トイレだいじょーぶ?」
「…お前、本当にトイレ行くと思ってたのかよ」
「………えっ、違うの?」
目配せでうまく通じたと思ったのだけれど…
そう思って居たのは市ノ瀬だけだったようで、失意に肩を落とし小さく溜め息をつく。
「口実に決まってんだろ。そんなの」
「こう、じつ…」
仲の良い人達と共に居るのも悪くはないけれど、やはり2人だけの時間が欲しいという気持ちは拭えず、タイミングを見計らい口実を作って抜け出した。
気がついてもらえるかどうか賭けではあったけれど、瞬時に目があい何も言わずとも自ら着いてきてくれた事に、通じ合えたと安堵し嬉しく思っていたのだけど…
『明には通じてたっぽいのになぁ』
どうやら1番に伝わって欲しかった相手にはうまく伝わらず、絶妙な表情で自分を見上げているのがなんだか切ない…
「皆でわやわやするのも悪くねぇけど、足りねぇんだわ」
「なにが?」
「ずっと考えてた。お前と2人になれる理由」
「………」
「…まぁ、良いよ。お前が楽しければなんでも」
経過はどうであれ2人で居られる時間が作れたのなら結果良ければだ。会話を打ち切り再び歩き始めたその時。
「……どうしたよ?いつもは嫌がるくせに」
「いや…知り合いに見られるのはあれだけど…そーじゃなければ、良いのかなって…たまにはねっ!」
「気分かよw」
「…やなら、離すけど」
「嫌なわけねぇだろ」
突然包み込まれた手の暖かさに驚きこそすれど、市ノ瀬は即座に指を絡め更に密着させる。すると繋ぎ合わせた手から、安積の微かな動揺が伝わってきた。
『自分から繋いできたくせに。でもこれは…来るな…』
心に。
俗っぽく言えばきゅんきゅんすると言った感だ。
もっとスゴいことしてるのにこんな事でと思いつつも、そこも可愛らしいと思ってしまうのは惚れた弱味という所だろうか。
「………口実、というかさ」
「ん?」
今すぐにでも心行くまで抱き締めたい。
そんな衝動を抑えつつ、繋がれた手からもたらされる幸福を味わいながら、言葉も交わすことなく景色を楽しんでいると、不意に先程の会話が戻ってきた。
景色から安積へと視線を移すと、照れたようにうつ向きただひたすらに地面を見つめ言葉を紡いでいる。
「お前がトイレ行くって言った時さ」
「おう」
「今だっ!…って、思って」
「今だ?」
「……なんというか、口実じゃなくて…チャンスを狙ってたと言うか」
「チャンス….」
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