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- 27章 -
- 謹賀新年-
しおりを挟む微塵も隠そうともしない明け透けな鈴橋の言動にあくせくしつつも、嬉しかったの言葉になんだか色々と落ち着かない。
恋人同士ペアでなにかを持つというのは誰でもやるような事でそこまで恥ずかしい事ではないし、班乃には付き合っている事を知れているのでそこは問題ないのだけれど…
その理由までは流石にちょっと、という所であって…
投げかけられる興味深げでからかう様な班乃の視線を全力でスルーしているとどうやら諦めてくれたようで、前を歩く2人と話し始めたその後ろ姿に植野は1人ひっそりと安堵の息をついた。
「あっ、お煎餅売ってる!うまそうっ!!」
「…お前朝飯ガッツリ食ってただろ?まだ食うの?」
「睦月のラピ○タ飯旨いんだもんw それにこう言うのは別腹なのっ!」
『成る程…睦月はお泊りだったんですね』
なんとなく切ない気持ちになりながら、5人で好きなお煎餅はどれかと盛り上がっている内に鈴橋の機嫌も少し良くなったようだ。結局1枚づつ買い舌鼓しながら目的地を目指していく。
道中弓道体験が出来る店があり興味津々にガン見していた安積だが、あまり人の多さに無言で諦めるその後ろ姿に癒されながら漸く総門を眼前にとらえた。
「あれ?もう着いちゃった。美味しい蜂蜜屋さんあるって聞いたんたけど…見つからなかったなぁ」
『もう、って………理解できん』
電車を降りて仲見世を突っ切り、目的地を眼前にしたわけだけれど…
すでに体力の殆どを使い果たして居る鈴橋にとっては、残念そうにあっけらかんと “ もう ” などと宣う安積に最早恐怖すら覚える程だった。
「蜂蜜屋さんなら左側にありましたよ?」
「えっ、まじ? うわぁー…気がつかなかったなぁ…よしっ、帰り寄ろうっ!楽しみっ!」
『…そうか。帰りもあるのか……』
来たからには帰りだって勿論あるわけで…そんな当たり前の事にすら考えが至らない自身の現状に鈴橋の口からは盛大な溜め息が漏れる。
それでもー
「…がっくん、大丈夫?」
「…大丈夫、とは言えないな。でも…」
「上まで登るの止める?」
「……上?」
植野の言葉に顔を上げ指差す方向へと視線を向けた。
そこにはー
「……………」
「本当に駄目そうなら無理しなくて良いからねっ!?」
「唖然の言葉を見事に体現してますねっw」
言葉もなくただただ見上げる鈴橋の視線の先には頂上の見えない階段がそびえ立っていた。そしてそこには地面が見えない程の人々がひしめき合っている。
終わりの見えないこの疲労ばかりが溜まる現実に目眩すら起こしそうで…
「あっ!? ごめんがっくんっ、気がつかなかったっ!大丈夫!?」
「顔死んでんなっw しんどかったら休んでれば?確か休憩所あった筈だし。…登った先だけどw」
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