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- 27章 -
- 謹賀新年-
しおりを挟むその頃先頭を歩く安積達の隣では、鰻丼などに変貌を遂げるであろう、つい先程まで生きていた鰻が店頭で職人により捌かれている所だった。さすが名物だけある。
植野と鈴橋の醸し出す雰囲気には気づかぬまま職人技に興味深げな視線を向ける安積の隣で、目打ちされる鰻の様子に自身を抱き締めながら市ノ瀬が眉をしかめていた。
魚に痛覚はないと言われていたけれど、目打ちされビチビチと跳ねる姿に、それは事実なのだろうかと疑問を感じざる終えない。
痛みにより暴れている説もあるし、痛覚はなく驚きで暴れているだけ説もある。
痛みがあるのなら、何故釣り堀の魚は懲りずに食らいつくのだろうか…もしかしたらそれは記憶力が起因してくるのかもしれない。中々に興味深い論題だ。
班乃の頭の中ではそんな考えが駆け巡り、同じものを見ているのにも関わらず思うことは三者三様だった。
人によっては目を背けたくなる場面だが進みの遅い人並みにより直ぐにその場を離れることは出来ず、否応にも視界に入ってくる。
「せーちゃんは平気なんだ?なんか意外」
「なにが?」
「ほら、ちょっとこー…残酷というか、ねぇ?」
演劇部組に追いついた植野がそう問いかけると小さく首を傾げた安積は少しの間の後、“平気”の意味を理解したようで小さく納得の声を漏らした。
「別になんとも思わない訳じゃないよ?でも、しょうがないよね、頂点捕食者だし。食物連鎖は大事でしょ?とはいえ出来るだけ苦しませたくはないじゃん。そう思うのも勝手かもだけど、そこはまぁ、人間だから。だからさ、感動するくらいの職人技ってありがたいよねっ!」
「食物連鎖…」
「あなたの命で、自分の命が出来てます、ってゆー感謝も大事だし、残酷だって目を背けるのもなんか違うよなぁーって思うしね」
「……えぇ?」
「…え、俺なんか変なこと言ったかな?」
「…いや、誰?」
「なんでっ!?」
安積のイメージからはあまりにもかけ離れた口にすらしそうもない言葉をスラスラと喋りだすものだから、思わず目の前の人物は本当に彼なのだろうかとそんな言葉が植野の口をついた。
「いや、あまりにも柄でもないこと言うなぁと…誉めてるし、感心してるよ? 一応…」
「誉められてる気ぃ全くしないんだけどっ!?」
「え、ごめん」
「素直に謝られるとなにも言えないなっ!?」
賑やかな会話が繰り広げられながら少しづつ少しづつ、ゆるやかに列は進んでいく。
そんな中、真隣で捌かれる鰻からそれとなく無く視線を反らし決して見まいとするような素振りを見せている鈴橋に、班乃の脳裏では先程のドジョウのくだりがよみがえった。
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