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- 27章 -
- 謹賀新年-
しおりを挟む「…人が…ごみの……」
「がっくんっ!? 気を確かにっ!!」
「初めて行く場所なので地図は確認してきたんですけど、その必要はなかったですね」
「向かう場所は皆一緒だろうしね!」
「人の流れについてけば勝手につきそうだな」
「…あの、大丈夫ですか? 学君」
「………はい、ここで諦めたら試合終了なので」
今にも倒れそうな程疲労を色濃く浮かべた表情でボンヤリと人集りを眺める鈴橋に声をかけると、彼には珍しくネタを口にした。
というか、何気に今日だけで4回目だ。
「こいつ人混みに連れ出すと面白くなるのなw」
「………」
『これは大丈夫ではないのでは…?』
市ノ瀬のいじりにすら言い返す気力もないようで…本当に大丈夫なのかと植野にアイコンタクトを送った班乃だったが少し困った様な笑みだけが返される。
心配は拭えないがもし本当に駄目ならば植野がなんとかするだろう。それにそれは彼の特権でもあるのだろうし、自分の出る幕ではないだろうとでしゃばらず一任することにした。
「先生っ!初詣がしたいですっ!!」
「はいはい、急がず行きましょう」
あちらこちらに目を輝かせ今にでも飛び出しそうにしながらも鈴橋の言葉はしっかりと聞いていたようで、安積が被らせたネタを口にした所で漸く目的地へと足を進め始める。
ゆっくりとした人並みに歩調を合わせながら、仲見世を見られるよう右側を陣取り進んでいく。市役所やコンビニでさえも観光地ならでは外観を損なわないデザインとなっており、様々な人の努力が感じとれる。
「凄いな!和っ!!」
「ホントだ。この7の看板初めて見たわ」
「あっ、見てみて!!うさぎ居るうさぎっ!!」
「まじだ。これもしかして十二支全部あるのか?」
「かもねっ!探そ!」
右に左にキョロキョロと視線を動かす安積と同じように辺りを見渡しつつも、安積の声にあわせ同じものを見ては会話に花を咲かせる。
様々なものを共有しながら歩く市ノ瀬の、そんな2人の後ろ姿はー
『ほんと、お似合いですね…』
素直にそう思い浮かぶ程ごく自然体で、そんな情景に今の状態に落ち着いたのも最初から決まっていた事だったかのように納得してしまう。
クリスマス、2人の間に何があったのか班乃の知る所ではないが、楽しそうに笑い、時折口をつぐんでは幸せそうな笑みを浮かべる安積を見ればきっと上手く行ったのだと確信出来ると同時に、素直に笑みが溢れた。
班乃にとって自分の選択が正しかったのかどうか、それを肯定出来るのは “ 彼の笑顔だけ ” であり、それだけがすべての答えだからだ。
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