Pop Step

慰弦

文字の大きさ
上 下
926 / 1,142
- 27章 -

- 謹賀新年-

しおりを挟む


「…人が…ごみの……」

「がっくんっ!? 気を確かにっ!!」

「初めて行く場所なので地図は確認してきたんですけど、その必要はなかったですね」

「向かう場所は皆一緒だろうしね!」

「人の流れについてけば勝手につきそうだな」

「…あの、大丈夫ですか? 学君」

「………はい、ここで諦めたら試合終了なので」


今にも倒れそうな程疲労を色濃く浮かべた表情でボンヤリと人集りを眺める鈴橋に声をかけると、彼には珍しくネタを口にした。

というか、何気に今日だけで4回目だ。


「こいつ人混みに連れ出すと面白くなるのなw」

「………」


『これは大丈夫ではないのでは…?』

市ノ瀬のいじりにすら言い返す気力もないようで…本当に大丈夫なのかと植野にアイコンタクトを送った班乃だったが少し困った様な笑みだけが返される。

心配は拭えないがもし本当に駄目ならば植野がなんとかするだろう。それにそれは彼の特権でもあるのだろうし、自分の出る幕ではないだろうとでしゃばらず一任することにした。


「先生っ!初詣がしたいですっ!!」

「はいはい、急がず行きましょう」


あちらこちらに目を輝かせ今にでも飛び出しそうにしながらも鈴橋の言葉はしっかりと聞いていたようで、安積が被らせたネタを口にした所で漸く目的地へと足を進め始める。

ゆっくりとした人並みに歩調を合わせながら、仲見世を見られるよう右側を陣取り進んでいく。市役所やコンビニでさえも観光地ならでは外観を損なわないデザインとなっており、様々な人の努力が感じとれる。


「凄いな!和っ!!」

「ホントだ。この7の看板初めて見たわ」

「あっ、見てみて!!うさぎ居るうさぎっ!!」

「まじだ。これもしかして十二支全部あるのか?」

「かもねっ!探そ!」


右に左にキョロキョロと視線を動かす安積と同じように辺りを見渡しつつも、安積の声にあわせ同じものを見ては会話に花を咲かせる。

様々なものを共有しながら歩く市ノ瀬の、そんな2人の後ろ姿はー

『ほんと、お似合いですね…』

素直にそう思い浮かぶ程ごく自然体で、そんな情景に今の状態に落ち着いたのも最初から決まっていた事だったかのように納得してしまう。

クリスマス、2人の間に何があったのか班乃の知る所ではないが、楽しそうに笑い、時折口をつぐんでは幸せそうな笑みを浮かべる安積を見ればきっと上手く行ったのだと確信出来ると同時に、素直に笑みが溢れた。

班乃にとって自分の選択が正しかったのかどうか、それを肯定出来るのは “ 彼の笑顔だけ ” であり、それだけがすべての答えだからだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

美しき父親の誘惑に、今宵も息子は抗えない

すいかちゃん
BL
大学生の数馬には、人には言えない秘密があった。それは、実の父親から身体の関係を強いられている事だ。次第に心まで父親に取り込まれそうになった数馬は、彼女を作り父親との関係にピリオドを打とうとする。だが、父の誘惑は止まる事はなかった。 実の親子による禁断の関係です。

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

処理中です...