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- 26章 -
- クリスマスおまけ② 植野&母 -
しおりを挟む『ただいまーっと』
夜明け前静かすぎるこの部屋は~♪と頭に浮かぶほど、帰宅した部屋は雨戸も閉められ光一つない。
まぁ、若干夜は明けているけれど…
寝ているであろう息子を起こさないよう心の中でただいまを唱えながら若子は靴を脱ぐ。本来なら帰宅するには少し早い時間に自宅に着けたのはお店の人のご厚意だ。
とは言え友達のお家でクリスマスを祝ったようだし自宅で盛大にやる必要はないだろう。しかし何もやらないというのは…少し寂しい。
『2日連続になっちゃうけど…』
片手に下げた箱へ1度視線を落とし、小さく笑みを作る。
『喜んでくれると良いなぁー』
そろそろと足音を殺しリビングへと入りバッグを下ろしながら手探りで明かりを着けると、いの1番に目に入ったのはー
「…………」
『あれっ、珍しい…』
冬御用達の誰もが大好きであろうコタツの中で熟睡中の愛息子の後ろ姿だった。寝る時はわりとしっかり布団に入る子なのでこの光景は珍しい。
このまま寝かせておいてあげたい気もするがコタツで寝るのはあまり体に良くないしと驚かせないように静かに肩を揺らした。
「綾ちゃーん? 気持ち良く寝てる所ごめんねどけど、ちゃんと布団に入ろー?体調悪くなるよー?」
「………ぁ、あぁ、お帰り。お疲れ」
「ただいまっ!」
大きな欠伸をしながらゆっくり体を起こし目を擦る息子に、常備しているスポーツドリンクを差し出した。
「コタツで寝落ちなんて珍しいじゃない?大丈夫? しっかり水分とってねー」
「…大丈夫。ありがと」
差し出されたスポーツドリンクを素直に受け取った植野は一気に飲み干しながら手を洗いに脱衣場へ向かう母の後ろ姿をぼんやりと眺め、漸くチキンを作った後にそのままコタツで寝落ちしてしまったのだと頭が追い付く。
思い立ってわざわざ教わって作ってみて思いの外うまく出来たのは良いものの、いざ提供するとなると気恥ずかしい。
とはいえ台所に置かれたそれに気がつくのは時間の問題だ。気づかれて問われる前に出してしまった方が何かと言い訳もつく。
先手必勝だ。
手を洗いを終え再びリビングへと戻ってきた母に、まだフライパンの中に並ぶローストチキンを見えるように差し出した。
「なぁ、これ、チキン買ってきたんだけど、食う?」
「ローストチキンだぁっ!? いーねー!クリスマスって感じっ!綾ちゃんの分もあるの?」
「あるよ、俺も食べたいから作った……んだし」
『やべっ……』
作ったとは言いづらく買ってきたで通そうと思ったのだけれど、うっかり口を滑らせてしまった。完全に、完全に頭が起きていなかった…
『どうか、気がつきませんように…』
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